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世界で一人だけの君へ
第11章  槙 璃子の力
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スタジオに入るとなんだか微妙な空気。


「ダメダメーーー!!
 もう1回いくよ

 ワタチャンどうしたの?
 君にとってはなんてことないシーンだろ
 勘弁してよ!!」

監督の怒鳴り声が聞こえる。
怒られているのは新人の男の子ではなく
大物俳優 渡部 拳だった。

監督の側に歩み寄る。

「すみません監督。お呼びですか?」

怒鳴っていた監督は興奮した表情のまま振り向いた。

「あ!槇ちゃんどこいってたの?

 ワタチャンがさ、うまくいかないんだ
 休憩入れるから頼むよ」

「わかりました。
 監督、握手してください」

「ん、事情は分かってるんだ。

 でも彼も俳優としてのプライドがあるだろ
 無下に帰れとも言えないからさ」

と小声で囁く。

私は監督と握手した。

監督の感情が私のなかに流れ込んでくる...

「わかりました」


私は監督を見つめ微笑んだ。

「昼休憩入りまーす!」

助監督さんの声がスタジオに響く。
俳優、スタッフがスタジオから出ていく。


渡部 拳はセットの中で項垂れていた。

「拳さん、食事しませんか?」

私は声をかけた。
渡部拳とは以前も仕事しているので話しやすい。

顔をあげた渡部拳は

「あ、槇ちゃんか...

 情けないとこ見られちゃったな...」


「そんなことないです。ご飯行きます?
 それともここでいいですか?」

渡部拳は私の言葉に

「君のメイク室で食事をとってもいいか?」

と答えた。

「わかりました。お弁当をとってきますので先に部屋に行っていてください」

と笑顔を向ける。

「ありがとう。 悪いね」


拳さんは力なく立ち上がり歩き出した。



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