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はつこい
第6章 好きな人
彼は一見、ごく普通、いやどちらかというともっさりとしていて、あまり心惹かれるタイプではなかった。
同じ史学科の学生だったにも関わらず、入学後、半年くらい存在にすら気づいていなかったし、一度、課題で同じグループになって少し話した時にもボソボソと地名に纏わる古文書の話ばかりするので全く関心が持てなかった。
所が、そんな彼に対するあたしの見方を変えたのが、ある知人からの一言だった。
「彼はね、かるたのA級選手で高校選手権のチャンピオンなんだよ」
競技かるたにはあまり興味が無いが、非常にスピーディな動きと高い暗記力が要求されるという事くらいは薄っすらと知っていた。
あんなに鈍臭そうな人がと俄に信じられない思いだったが、その知人に誘われてかるた部の見学に行き、彼が練習をしている様を見て納得した。
息をするのも躊躇うほどの静寂の中、読手が読むか読まないかのタイミングで素早く手が払われ、かるたの札が宙を舞う。
それはあまりにも特異な世界だった。
その中で彼は誰よりも早く美しく札を払っていた。
今まで、あまり何かに心惹かれるという経験はなかったが、その時の彼の姿はあたしの心に強烈に焼き付いた。
同じ史学科の学生だったにも関わらず、入学後、半年くらい存在にすら気づいていなかったし、一度、課題で同じグループになって少し話した時にもボソボソと地名に纏わる古文書の話ばかりするので全く関心が持てなかった。
所が、そんな彼に対するあたしの見方を変えたのが、ある知人からの一言だった。
「彼はね、かるたのA級選手で高校選手権のチャンピオンなんだよ」
競技かるたにはあまり興味が無いが、非常にスピーディな動きと高い暗記力が要求されるという事くらいは薄っすらと知っていた。
あんなに鈍臭そうな人がと俄に信じられない思いだったが、その知人に誘われてかるた部の見学に行き、彼が練習をしている様を見て納得した。
息をするのも躊躇うほどの静寂の中、読手が読むか読まないかのタイミングで素早く手が払われ、かるたの札が宙を舞う。
それはあまりにも特異な世界だった。
その中で彼は誰よりも早く美しく札を払っていた。
今まで、あまり何かに心惹かれるという経験はなかったが、その時の彼の姿はあたしの心に強烈に焼き付いた。