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女鑑~おんなかがみ~
第14章 被虐
「どうしても,というならお前がすぐに身請けしてやったっていいんだよ。
どうせ,お前なら,悪いことをして貯めた金がたくさんあるんだろうから」

久子は茶を飲みながら言ったが,若槻は黙って首を振った。
「いや,妻も妾も持つつもりはない。身軽なほうがいいということに変わりはない」と答えた。

「そうかい。だったら,これからはあの子に,他の客の相手もしてもらうよ。いいんだね」

「……いいも悪いも,俺に確認することじゃないだろう。姉上の店じゃないか。俺などは,たった二日間だけ通った行きずりの客の一人にすぎないんだから。
というより,もう次の客の相手をしているころじゃないか。

…‥言っちゃなんだが,あんな田舎の店じゃ,金払いのいい客も少ないだろう。
ああいう小娘を好みそうで,あまり無体なことしないような金持ちというのが,いるところには結構いるものだ。
仕込み甲斐のある娘がいるから,お忍びで遊びに行ってくれと言って,今日も一人来る手はずになっている。
素性を明かせないので頭巾か何かかぶってくるかもしれんが。」

「手の込んだことだね。そんなことをしなくても,どうせこちらの知らない人だったら関係ないだろう。」
「……まあ,頼むよ」
「わかったよ。素性を明かせないって,罪人なんかじゃないんだろうね。まあ,店に迷惑が掛からないのなら何でもいいけど。
それより,お前,もう少ししばらく,あと三日くらいは葵のところに通うのかと思っていたんだけどね。しばらくは時間もあったんだろう」

「……そのつもりだったよ。でも,これ以上は……」
「離れられなくなると思ったんだろう」

「まあ,そういうことだが,それだけじゃない。
あいつが,俺を好きだと言いかけたんだ。好きな男などいないといっていたのが,気を遣った途端に,あの細い身体の奥で俺を掴まえて離さなくなって,そして恐ろしいほど妖艶な目で俺を見て,はっきり,好き,と……」

「……そりゃ,あの子だって新米とはいえ,女郎の端くれなんだから,客に好きだとぐらい言うだろうよ。それに,気を遣ったときは,とりあえず目の前にいる奴のことを好きだという気持ちになるもんだ。
お前も案外,騙されやすい質じゃないか。私はもう帰るよ。今日もお前が払ってくれるんだよね。ご馳走様」

久子は先に席を立ち,若槻が一人残された。



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