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女鑑~おんなかがみ~
第16章 献身
葵は,この男が意外と優しい声をしていると思った。
「…また,来てくださいますか」
「…さあ,どうだろうな。ある知人から,ここへきて葵という女が預かっている文書を受け取れと言われたから来たまでだ。その文書はくれるんだろうな。これが大事なんだぞ。」
「確かに,いらっしゃったお客様に文書をお渡しするようにとは申し付かっております。しかし私は,日ごと違う方のお相手をする身でございます。
しかも今は目隠しをされているのですから,本当にあなた様がそのお客様かどうかわかりません。この前にも,「例の文書をくれ」といって見えられたお客様はおられましたので。」
最後の部分は葵がその場で考えた嘘であった。
「タイガの紹介,だと名乗って,目隠しをさせる客に文書を渡し,情報を聞き出せ」と言われているのだから,他の客にそのようなことを求められたことはない。
「で,その客に渡したりはしていないのだろうな」
「そのようなことは致しません。」
「じゃあ,どうすれば渡してくれる」
「私はあなた様のお顔を拝見することは叶いませんので,その代わりにこれからのご予定を教えていただけますか。
この書類は非常に大切なものでございますので,これからそれをいつどこにお持ちになるのかを元の持ち主の方にお知らせしなければなりません。」
そういうと,男はすぐに納得して詳しい予定を知らせてくれたのだ。
もちろん目隠しをされたままの状態で口頭で伝えられるだけであるが,すべて覚えた。
そして若槻から預かった文書を渡し,男はそれを開いて確認した。
「ああ,これがあれば助かる。よく預かっていてくれた」と男は嬉しそうに言った。
男は書類をかばんにしまった後,もう一度葵の身体を愛おしそうに抱き,そして脱がされた着物を優しく掛けてくれたあと,静かに足音が遠ざかっていった。
葵は身体に残る甘美な感覚を味わいながら,頭のなかでさっきに聞いた情報を復唱したのだった。
「…また,来てくださいますか」
「…さあ,どうだろうな。ある知人から,ここへきて葵という女が預かっている文書を受け取れと言われたから来たまでだ。その文書はくれるんだろうな。これが大事なんだぞ。」
「確かに,いらっしゃったお客様に文書をお渡しするようにとは申し付かっております。しかし私は,日ごと違う方のお相手をする身でございます。
しかも今は目隠しをされているのですから,本当にあなた様がそのお客様かどうかわかりません。この前にも,「例の文書をくれ」といって見えられたお客様はおられましたので。」
最後の部分は葵がその場で考えた嘘であった。
「タイガの紹介,だと名乗って,目隠しをさせる客に文書を渡し,情報を聞き出せ」と言われているのだから,他の客にそのようなことを求められたことはない。
「で,その客に渡したりはしていないのだろうな」
「そのようなことは致しません。」
「じゃあ,どうすれば渡してくれる」
「私はあなた様のお顔を拝見することは叶いませんので,その代わりにこれからのご予定を教えていただけますか。
この書類は非常に大切なものでございますので,これからそれをいつどこにお持ちになるのかを元の持ち主の方にお知らせしなければなりません。」
そういうと,男はすぐに納得して詳しい予定を知らせてくれたのだ。
もちろん目隠しをされたままの状態で口頭で伝えられるだけであるが,すべて覚えた。
そして若槻から預かった文書を渡し,男はそれを開いて確認した。
「ああ,これがあれば助かる。よく預かっていてくれた」と男は嬉しそうに言った。
男は書類をかばんにしまった後,もう一度葵の身体を愛おしそうに抱き,そして脱がされた着物を優しく掛けてくれたあと,静かに足音が遠ざかっていった。
葵は身体に残る甘美な感覚を味わいながら,頭のなかでさっきに聞いた情報を復唱したのだった。