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女鑑~おんなかがみ~
第5章 悪意
この日以降、操子はお兄さまと話すのが何となく気が進まなくなった。
お兄さまがなんとなく、不潔になった気がして、昔のような憧れの気持ちは消えてしまった。誰よりも賢くて美しかったお兄さまが、女中さんによって汚されてしまったのではないかと思うと嫌悪感がつのった。

お兄さまは、寄宿舎に入る日が近づくにつれて、苦しそうな顔をすることが増えた。お母さまは「もうすぐ新しい学校に入るから緊張しているのでしょう」と仰っていたが、操子はそれが理由だとは思わなかった。

いよいよ明日、神戸に出発するという日になって、お兄さまは特に、何かいらいらと落ち着きがなかった。
何度も加工場のほうへ行ったり来たりして、そして唐突に、お父さまに対して
「職人や女中に対しても、信書の秘密は守られるべきではありませんか」と主張したが、
お父さまが反論をしようとなさると、
「もう結構です」と言って立ち去った。
お父さまも呆れておられた。

そして、操子を強引に物陰に呼び出して言った。
「操子、僕が神戸に行った後、君に用を頼みたいのだが、よいだろうか」
操子は曖昧にうなづいた。
「お父さまやお母さまには内緒で、頼みたい用があるんだ」
操子は返事に困った。
親に隠し事をするのが悪いことだというのは、修身で何度も習っている。
操子はお兄さまとそのような約束をしたくはなかった。
「いいだろう、頼むよ」
操子は早く家のなかに戻りたくて曖昧に「はい」と言った。
お兄さまは翌朝の汽車で出発した。
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