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女鑑~おんなかがみ~
第5章 悪意
お兄さまが高等商業の寄宿舎に入ってからひと月が過ぎた。
操子は学校では相変わらず級長を務め、放課後はお茶とお花のお稽古に勤しむ日々を過ごした。もともと材木問屋の工場や店先にはあまり寄り付かないほうだったが、この頃は全く近づかなくなっていた。

それは一つには職人や女中といった人たちと年齢が近くなったことがあった。幼い頃は雇われて働く人たちはみな小父さんや小母さん、大きなお兄さんやお姉さんであったが、今、自分より若い人が親元を離れて働いており、自分は女学校に通っているということにうしろめたさと気まずさを覚えた。

同時に、彼ら使用人たちの会話のなかにある文化や生活、特に男女のことについての考え方は、操子たちが女学校で学ぶものとは相容れないものであるということに徐々に気づくようになり、それに対する嫌悪や恐怖もあった。

だから学校やお稽古事から帰宅しても、なるべく加工場には近づかないようにして家に入り、自分の部屋で過ごした。

そんな五月のある日、寄宿舎にいるお兄さまから操子宛てに小包が届いた。出発前にも土産を送るといわれていたので、少し期待しながら封を開けた。

中に入っていたのは、英語と数学の参考書が1冊ずつとなぜか古い英和辞典のようであったが、その英和辞典を見たとき、操子は一瞬で違和感を覚えた。
それは中学時代からお兄さまが愛用していた英和辞典の外側のケースのみであり、中には別の包みが折りたたんで押し込まれていた。

辞書の箱や教科書の表紙のなかに、恋文や恋愛小説を隠すというのは、日ごろから操子が級長として取り締まっている不良生徒たちの常とう手段であり、お兄さまがそのような稚拙な方法を使っているということに操子は怒るよりも呆れた。

英語の参考書には大学ノートのページを切っただけの手紙が挟まれていた。
「操子殿
お変わりありませんか。
操子殿は卒業後の計画を立てたでしょうか。
独逸や米国では女子も大学や専門学校に進む者が多数あります
操子殿も、女学校を終えた後、女専に進学して見聞を広めることを望みます
神戸の書店で見つけた参考書を送りますので勉学に励まれたく存じます

追伸
中に入っている封筒は、開封することなく
材木置き場で女中をしている下田スエ殿に届けられたし
ゆめゆめ父上や母上に知られぬよう注意されたし
孝秀 拝」
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