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女鑑~おんなかがみ~
第7章 離心
これまでの倉持家にはあり得ないことだった。
普通、職人や男衆、女中といった雇い人が、来客に対して、主家の事情をべらべらと喋るということはあってはならない。
仮に聞かれても、「私は存じませんので」と言って責任の持てる人を呼びに行くものである。
それを、一人が「女中と駆け落ちした」と言い、別の一人が「女郎に売られた女中を追いかけて行った」と言い、もう一人が「妹に恋路を邪魔されて喧嘩をして出て行った」と喋った。

先代のころからこの家をよく知っている大山は、まさしく開いた口がふさがらず、わざわざ当人の学校の夏休みに合わせての見合いということで、夏草模様の絽の単衣をわざわざ誂えて着つけてきた娘は、材木の並んだ問屋の店先で泣き出すという愁嘆場となり、それを年配の女中たちが慰めながらまたいろいろと喋るという、考えられる限り最悪の状況となっていた。

翌日、大山は仲人である隣村の村長を通じて書面を届けたが、それはほとんど絶交状というべきものであった。

曰く、御当人に他に思う人がいるのであれば、断ってくれるのは一向に構わない。そうしてくれたのなら、娘とは縁がなかったということで、それでも、これまで通りの取引は別の問題として続けさせてもらうつもりだった。
しかし、見合いの当日に女中だか女郎だかを、追いかけていなくなるような息子の行状を隠したうえで、わが娘との縁談を進め、あわよくば騙したままの状態で嫁入りさせようとしたとなると、当方にとっても大切な娘の名誉を大きく棄損されたことになり、断じて許すことができない。
さらに、貴店の男女雇人らの行状、品行を見る限り、木材の販売先としての信頼性にも大いに不安があるので、今後は一切の取引を停止させていただく、とざっとこのようなものである。

ぐうの音も出ないような正論であった。
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