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女鑑~おんなかがみ~
第7章 離心
七月の半ばに孝秀が突然帰省し、その後、実家に一泊もせずに家を飛び出したことで、家庭内での不和が従業員たちすべてに知られることとなった。

幸か不幸か、職人も女中も、スエの行き先を正確に知るものはいなかったが、どうやら遊郭に行ったらしいという噂を伝えられたことで、孝秀は激高した。
そして、孝秀が妹の操子を罵って出て行ったということは、特に年配の女中たちには大きな衝撃であった。
年配の女中たちの多くは、先代が経営者であった頃に雇われ、一人娘であった淑子が婿養子を迎えて一男一女に恵まれるという、この家の繁栄の歴史とともに女中としての経験を重ねており、彼女らにとって、孝秀と操子は、愛らしくて賢くて兄妹仲の良い憧れの子どもたちであった。
だから、久々に孝秀が高等商業の寮から帰省したのであれば、どんなにか美しい家族団欒となることかと心待ちにしていたのである。それが、兄が妹を罵って出てゆくという信じがたい光景を目にしたことで、女中たちの間に、大きな動揺が広がった。

さらに悪いことが重なった。
実は、大旦那の猛は、孝秀が帰省する夏休みの間に、孝秀に見合いをさせる計画を立てていた。隣村出身の県会議員で隣村に広大な山林を所有する「山持ち」である大山氏の次女が相手であり、彼女は操子の女学校の先輩でもあったことから、かなり乗り気であった。
当然のことながら大旦那は、この縁組により大山氏の所有する山林から優先的に木材を購入したり、県会議員に様々の利権について働きかける機会を狙っていたのである。

しかし、帰省した当日に孝秀が出奔し、猛も妻の淑子も慌てたためか、大山氏に見合いの延期を伝えることを完全に失念していたのだ。このとき病気か何かの適当な言い訳を作ればよかったのであろうが、それすらも思いつかないほど憔悴していたのかもしれない。

さらにいえば、いつもならこういうとき、適当な言い訳を考えたり、うまく相手を懐柔したりしてくれたのが若槻であったが、今回、彼はそのような役目を買って出なかった。

結果的に、大山氏親子と仲人である隣村の村長が酷暑のなか、盛装で材木問屋の店先を尋ねたとき、当人は不在、両親は普段着でおろおろし、さらに一人の若い職人が
「孝秀さま? ああ、あの若旦那様なら、女中さんと駆け落ちしてどっかへいったとききましたけどね」と事実よりもさらに悪い説明をしたのだった。
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