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女鑑~おんなかがみ~
第10章 追懐
若槻は幾度か、倉持から呼び出しの連絡を受けていた。
相談というのは決まって、何とか資金繰りをして、投資に成功する方法はないかという話ばかりだった。
同時に、娘を結婚させることによって、なんとか新たな金づるを得たい、操子なら、息子とは違って素直で親孝行な娘なのでどこにでも片付くと言っている、だれか紹介してくれと、煩くなっていた。

しかし、二年ほど前から、若槻は、倉持の大旦那に会うことが億劫に感じられるようになっていた。特に、娘の操子が茶を立てるのを見ると、言いようのない感情が沸き上がった。

あるとき、若槻は、操子が茶を立て、席を外した後で、戯言を口にした。
こんなことを口にすれば、流石の倉持も怒り心頭となり、自分を出入り禁止にしてくれるのではないか、そうすれば、こちらから理由をつけて距離を置くより楽だと思ったのだ。
あるいは、黙って茶を立てる娘の横顔を見るたび、これまでからも湧き上がっていた妄想を、そのまま戯れとして、口に出してしまったのかもしれない。

「いっそのこと、あのお嬢さん、遊郭に身売りさせるという方法もありますよ。
どこにでも嫁ぐとおっしゃっているのなら同じことでしょう。」

殴られることも覚悟で口にした戯言だったが、蓋を開けてみれば、倉持は前のめりになって声を潜め、それでどれだけの金になるのかと詳細を知りたがった。
若槻は、自分のなかにどす黒いものが湧き上がってくるのを感じながら調度品も家具もほとんどなくなった応接間を後にした。
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