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女鑑~おんなかがみ~
第10章 追懐
「そうしているうちに、父と親しい若槻さんという方が、私を身売りさせれば当面の借りいれの整理はできるというお話をくださったので…」
千鳥が女将と顔を見合わせた。
「お兄さんが、行方不明、それは・・・・」夕顔が驚いた顔で何か言いかけたのを、女将が制した。しかし、操子は、夕顔の驚いた顔に気づいた。
「はい。たぶん、私のせいで…。私のせいで、兄の好きだった女中さんが苦界に売られたのだと、兄は怒って出て行ったのです。
そのときは、意味が分からなかったのですが、後でほかの女中さんに聞いて、私は恐ろしいことをしてしまったと知りました。
女学校を続けていても後ろめたくて、自分は、好きな人と結婚とか、そういうことは絶対にしてはいけないと思ってきました。
そんなときに、若槻さんが身売りの話を持ってきてくださったので、自分も同じように売られたら、少しは許されるのかなと…。
あの、違っていたらごめんなさい。
夕顔さん、スエさんではないですか。」
女将がため息をついた。
夕顔は、「やはり、そうだったのですね。でも、操子さまのせいだなんて、何かあったのですか。孝秀さまは、ご結婚されたのではないのですか」
操子は、急いで部屋に戻り、小さな包みを持って戻ってきた。
そして、「これ、お返しします」と夕顔に差し出した。
包みのなかには、大きな髪留めが入っていた。
「本当にごめんなさい。私が、兄からスエさんへの手紙と、この髪留めを、スエさんに渡さずに、父に渡したんです。
手紙にはスエさんと結婚すると書いてあったので、父に隠し事をしてはいけないと思ったのです。
父は、暇を出したとだけ申していましたので、スエさんはお里に帰られたのだと思っていたのです。後になって、マツさんから、スエさんが遊郭へやられたと聞いて、本当に申し訳なくて……」
ぽかんとしている夕顔の横で、女将が
「これでようやく意味が分かったよ」と言った。
「倉持の旦那は、操子が見せた手紙で、坊ちゃんとスエが好きあっているらしいと知って、それで慌てて、スエを女郎に売ってしまおうとしたんだ。
突然暇を出されたのもそのためだし、お前さんのことを、恐ろしく淫乱な毒婦であるかのように吹聴してきたのもそのためだ。」
千鳥が女将と顔を見合わせた。
「お兄さんが、行方不明、それは・・・・」夕顔が驚いた顔で何か言いかけたのを、女将が制した。しかし、操子は、夕顔の驚いた顔に気づいた。
「はい。たぶん、私のせいで…。私のせいで、兄の好きだった女中さんが苦界に売られたのだと、兄は怒って出て行ったのです。
そのときは、意味が分からなかったのですが、後でほかの女中さんに聞いて、私は恐ろしいことをしてしまったと知りました。
女学校を続けていても後ろめたくて、自分は、好きな人と結婚とか、そういうことは絶対にしてはいけないと思ってきました。
そんなときに、若槻さんが身売りの話を持ってきてくださったので、自分も同じように売られたら、少しは許されるのかなと…。
あの、違っていたらごめんなさい。
夕顔さん、スエさんではないですか。」
女将がため息をついた。
夕顔は、「やはり、そうだったのですね。でも、操子さまのせいだなんて、何かあったのですか。孝秀さまは、ご結婚されたのではないのですか」
操子は、急いで部屋に戻り、小さな包みを持って戻ってきた。
そして、「これ、お返しします」と夕顔に差し出した。
包みのなかには、大きな髪留めが入っていた。
「本当にごめんなさい。私が、兄からスエさんへの手紙と、この髪留めを、スエさんに渡さずに、父に渡したんです。
手紙にはスエさんと結婚すると書いてあったので、父に隠し事をしてはいけないと思ったのです。
父は、暇を出したとだけ申していましたので、スエさんはお里に帰られたのだと思っていたのです。後になって、マツさんから、スエさんが遊郭へやられたと聞いて、本当に申し訳なくて……」
ぽかんとしている夕顔の横で、女将が
「これでようやく意味が分かったよ」と言った。
「倉持の旦那は、操子が見せた手紙で、坊ちゃんとスエが好きあっているらしいと知って、それで慌てて、スエを女郎に売ってしまおうとしたんだ。
突然暇を出されたのもそのためだし、お前さんのことを、恐ろしく淫乱な毒婦であるかのように吹聴してきたのもそのためだ。」