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女鑑~おんなかがみ~
第10章 追懐
夕顔に続いて女将の部屋に入った操子は、入り口で座って丁寧に頭を下げた。
女将は若い娼妓らに、立ち振る舞いをしつけようとしていても、朱音や夕顔は行儀の悪さが目立つことがあったが、その点は心配なく、しかも、このように環境が変わったというのに、冷静でいることに驚いた。
「至らない点が多いかと存じますが、なにとぞよろしくご指導ください」と物静かに挨拶をする様子は、まるで名門の家に嫁いだ娘のようだと皆は思った。

「まあ、ここはこんな小さなところだから、それほど堅苦しく考えなくていいよ。
お嬢さん育ちのあんたには辛いことも多いだろうけれど、自分から進んできたからには覚悟もできているんだろう。」
操子は、硬い表情ではあるが小声で「はい」と言った。
女将は、
「まあ、今日はお客さんでよいが、明日からはここの掃除と洗濯と飯炊きを手伝ってもらうよ。大昔に女郎をしていたタケばあさんがここの女中をしているから、それを手伝っておくれ。とりあえず、今日くらいはお客さんでいいよ。一緒にお菓子を食べよう」と言った。

操子は、夕顔に勧められるまま菓子を食べ、茶を飲んだが、女将はその行儀のよさにも驚いた。
「お茶の心得があるんだね。こういう子がくるとうちの格も上がるよ。まあ、格が上がったってすることは同じなんだけどね。琴ができるのなら、三味も覚えるだろ。名目だけでも芸者ということにしたほうが、これからはいろいろ便利だ。だんだんいろいろと厳しい時代になっているからね。
私が昔使っていた三味があるから、小鶴に教えてもらいなさい。十八までは娼妓の鑑札はとれないから、芸妓ということにして、まあそれでも結局は同じことをするんだけれどね。」とあっけらかんとして話す。
「それにしても、お前さんは、良いおうちのお嬢さんだと聞いたが、どうしてこんなところに来たんだい」
「私は、女だから、兄のように跡継ぎにはなれないし、だから、少しでも家の役に立つように、父が決めたところにどこでも嫁ぐつもりでいたのですが、兄も行方不明になって、嫁ぎ先もなくなって、店も人手に渡ってしまいました。
早くどこにでもよいから嫁ぎたかったのですが、それができないのなら本当に何の役にも立てないのが悔しくて…」
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