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女鑑~おんなかがみ~
第13章 水揚げ
翌日の夕方,操子,いや葵は鏡に映った自分の姿を見た。
赤い長襦袢を着て化粧をされた姿はまるで知らない人のようだと思った。
千鳥さんも夕顔さんも気の毒なほど心配してくれる。けれど葵は,特に辛いとも寂しいとも思わなかった。
「お気遣いありがとうございます。覚悟はできています。」
と同じ言葉を何度繰り返しただろうか。

ようやくこれでほかのお姉さん方に,特に夕顔さんに引け目を持たなくて済む。
最初は痛いとか辛いとかみんな心配しているけれど,嫁に行ったとしても女はみんな経験することなら,自分に耐えられないはずがない。
私は,孝秀兄さまのように,好きな相手だの,自由恋愛だのというわがままではないのだ。

それは,若槻が到着してからも変わらず,玄関先で,今は女将の代役を務める千鳥と談笑する声を,葵は少し懐かしく聞いた。

********
若槻が千鳥に案内されて三階の部屋に入ると,少女はまっすぐに若槻の顔をみて三つ指をついた。
「ご無沙汰しております。家の始末のことではいろいろとお世話になりました。
今は,葵,と申します。どうぞよろしくお願いいたします。」

化粧を施された顔立ちは,記憶にある制服姿よりも大人びて見えたが,すぐにこのような挨拶をする声からは。女学校で融通の利かない級長を務めていたという勝気さを感じた,
「まるで武家の娘が敵方に嫁いだような感じだな、君は。」
そして若槻は,これまでにも何度も,初物を女にするときに言っていたのと同じような台詞を,特に考えもなしに言った。
「怖いだろうが,そんなに固くならなくてよい。
俺が最初というのは嫌かもしれんが、定めだと思って諦めてくれ。
辛いなら目をつぶって、好きな男のことを考えることだ」

葵は急に顔を上げて若槻を睨むように見た。
「お気遣いは無用です。怖くなどありません。覚悟はできています。
それに・・・好きな男などというふしだらなものはおりませんから」
若槻は思わず苦笑した。
「そうか、好きな男がいるというのは,ふしだらなのか、なるほど、なかなか面白い。
噂には聞いていたが,筋金入りの覚悟だな。これは楽しみだ。」
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