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結螺(ゆら)めく夏
第2章 夏祭りの夜
交接の疲れもあり、金魚鉢を眺めながら畳の上に横になる


チリン、チリン……


龍次に預けた風鈴が
夏の夜風に揺られ、高い音色を響かせる


……もう、寂しくないね……


目を細めながら二匹の琉金を眺めていると、不意に眠気に襲われる


体が鉛の様に重くなり、瞼が次第に閉じてゆく……


……戻らなくちゃ


そう思っているのに、体が言う事を利かない


その時、障子戸の開く音が背後から微かに聞こえた



「……結螺か」


微睡みの中、龍次の声が聞こえる


そして龍次の気配と畳を擦る音が此方に近付き、僕の直ぐ傍で止まる


「こんな所で、……無防備に寝やがって」


横向きに寝た僕の背後に、龍次が腰を下ろしたのを感じる

そして、ふっ、と溜め息混じりに笑った龍次の声……


「……可愛いな、結螺は」


龍次の意外な言葉に、僕は既に夢の世界の出来事なのかと錯覚する


「……お前は気付いてねぇみてぇだが
大見世にいる、太夫候補の引き込み禿にも見劣りしねぇ程可愛くて、綺麗な顔してんだよ……

あと五年早く、禿の年に売られてりゃあ、大見世の三浦屋辺りに引き取られ、楼主に寵愛されて、水揚げしたがる助平な爺が群がるくらい、色気のある振袖新造になっただろうにな……」


……やっぱり、夢……か……?

龍次の口から、そんな言葉が出るとは、思えない………


「……お前に客が寄り付かねぇのは
この見世に似合わねぇくらい器量が良すぎて、妙な誤解をされちまってるからだ……」


曝されてしまった方の首筋に、先程客に強く吸われて付いた痕がある
そこに、龍次の指がそっと触れた


「……ん、っ」


果てずに敏感なままの体が、ぴくんっと反応し
声も一緒に漏れ出てしまう……


「……ふ、本当に感じやすいな、結螺は……」


その声は、何処か憂いを帯びながらも優しく、僕を包み込んでくれる……

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