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結螺(ゆら)めく夏
第1章 榊様
一ヶ月前……
僕は人攫いに遭い、薄汚れた姿のままこの遊郭に連れて来られた
太夫を抱える大見世の楼主達は、禿の年を過ぎた僕になど見向きもせず、この中見世の玉川屋の楼主に引き取られた
下っ端の僕に部屋など与えられず、龍次による身体検査が終わると、直ぐに昼見世、夜見世に出て客を取らされた
『経験もねぇ上に、感度の良すぎるお前の馴染みになるなんて物好きはいねぇ…
…いいか、客を喜ばせての遊男に求めるものは、一時の夢だ』
身体検査の時に、龍次からそんな酷い事を言われたけど、夜見世に出て直ぐ、僕は榊様の目に止まった
榊様は床入り前にも関わらず、楼主に直接掛け合って。僕を部屋付きに格上げしてくれた
そして僕が処女である事を一層喜び
他の男に触らせたくないからと、常に三日分の揚げの前払いと、他に囲い代と称した吹っ掛け金まで嫌がらずに払ってくれている
『お前だけでは寂しかろう…
私に似た金魚を連れて来て、お前の隣に泳がせよう』
背後から抱き締められ、囁かれた言葉を思い出す
「………」
茶碗を片付けながら僕は
遊男が憧れるという『身請け』が、直ぐ傍まであると信じて疑わなかった
……しかし、その夜からぱたりと
榊様は来なくなった