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結螺(ゆら)めく夏
第1章 榊様
その手が、僕の首筋をそっと撫でる
榊の大きく潤んだ瞳を間近に見れば、ドキンと胸が高鳴った
そして引き寄せられると共に、榊の瞳が薄く閉じる

……榊様

唇に熱が当てられる
そして割開いた唇の間から、榊の舌が差し込まれ、咥内を愛撫される

「……ぁ、んっ!」

舌が絡まり、吸い上げられ
再び体に熱が灯る

「結螺……愛してる」






「……お前、浮かれるのはいいが本気になるなよ」

遣り手である龍次が、釜戸近くで朝食をとる僕に背後からそう言い放つ

「……」

龍次は直ぐ意地悪な事を言う

これでも一応、年季明け前までは人気の花魁だったらしい……

振り返ってチラリと睨み上げるが、何の効果もない
片方の口角をクッと上げ、僕に冷笑する龍次は、嫌味な位端整な顔立ちをしている

「……龍次に言われたくない」

不味い米に具のない薄い汁物をぶっかけると、さらさらと口の中に流し込む

そんな僕の頭を、ぽんと叩く

「可愛くねぇな……遣り手の小言くれぇ、素直に『はい』って言っとけ」

そう言い放つと、龍次は直ぐに去って行った


その姿を見届けながら、昨夜の出来事を思い返す


……あんな風に榊様に愛されたら
本気になるに、決まってるじゃないか……


口一杯の飯をもぐもぐしながら、頬が赤くなる



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