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振り向けば…
第11章 失敗した…
バレンタインデーが近付いたある日…。
「おじいちゃん!」
そう叫ぶ私が居る。
「親父!」
お父さんがおじいちゃんを揺する。
「お父さん!手を離して!来夢は救急車を呼べ!お母さんはおじいちゃんの保険証を探せ!」
医学部を目指す弟の来人だけが冷静だった。
お風呂上りのおじいちゃんが台所で倒れた。
心筋梗塞…。
その冬は冷え込んだ。
88歳というおじいちゃんの身体には急激な冷え込みに耐える事が出来なかった。
救急車の中でおじいちゃんが意識を失くす。
病院では緊急手術…。
そしておじいちゃんはおばあちゃんのところへと旅立った。
お通夜の夜、お父さんだけが私に寄り添って泣く。
「父さんは兄貴の家族だけが可愛いって人だったからな。」
こんな時なのに叔父さんや叔母さんがおじいちゃんへの不満を漏らす。
おじいちゃんの為に泣けへんからやろ?
ボロボロと男泣きをするお父さんと比べてそう思う。
なのに叔父さん達が帰ってからお母さんがお父さんを引張叩く。
「しっかりしいや!もう義父さんには頼られへんねんで…、アンタが喪主なんやから、しっかりと義父さんを送り出さんでどうすんねん!」
お父さんを土下座させたお母さんの話はまんざら嘘ではないのだろうと思った。
確かにお父さんがしっかりしなければならないのはわかってる。
それでもお母さんが鬼に見える。
私はそんな風に男の人の背中を押せる女になれるのだろうか?
おじいちゃん…。
もう少しだけ我が家を支えて欲しかったよ。
なんとかお葬式も済ませておじいちゃんは小さな白い箱になる。
またお父さんが箱を抱いて泣く。
私はお父さんに黙って寄り添ってあげるしか出来なかった。