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振り向けば…
第16章 トイレマット…
悠真の手には小さなケーキの箱がぶら下がってる。
「電話…、終わったんか?」
「うん…。」
「コーヒー入れてくれや。」
昼寝が出来なかったからティータイムに切り替える悠真に笑うしかなかった。
近所のケーキ屋でチーズケーキを買うて来た悠真。
「神戸の港地域に美味いチーズケーキ専門店があるの知ってるか?」
「そうなん?」
「家のオーブンで軽く温めて食うんやけど、チーズがトロトロになって美味いねん。」
「マジか?」
「オカンが一度、買うて来てくれて病みつきや。」
だから次の休みは神戸に行こと悠真が言う。
悠真と遊ぶ為には絶対に現場を終わらせてやるとか考える。
私の中で仕事をやる意味がこんな風に生まれる。
生活の為の仕事じゃない。
だけど悠真と遊ぶ為に仕事する。
それはそれで悪くない人生だ。
「神戸の約束は絶対やぞ。」
「わかっとる。俺も〆切終わらせるわ。」
晩ご飯を食べて約束をして私は帰る。
明日から仕事だから…。
次の休みは悠真と神戸…。
翌朝はご機嫌で現場に出勤した。
その日からデザイナーの邪魔がなくなり、工事はスムーズに進んでく。
「監督さん…、デザイナーから山ほど注文が来てるんですけど…。」
不動産会社の担当者が苦い顔で私に言う。
「工期を伸ばしてくれて追加予算を出してくれるなら、やりますよ。」
涼しい顔で答える私…。
「それは無理です。」
「なら、そちらで話し合うて下さい。」
この現場では我儘な施主に振り回されないという技術を学んだ。
私の仕事はきっちりと完了し、出来上がったモデルルームの工事完了の引渡しの書類には渋々と設計士であるデザイナーと不動産会社の担当者がサインした。