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振り向けば…
第3章 他の奴とは行くな…
「悠真は?」
だって、その映画は悠真が観たいと言うてた。
「悠真は奈良に行くから無理やって言うてた。俺、今週しか行かれへんねん。来週からはずっと試合になるからな…。」
全国大会に向けて大阪大会が始まる。
去年は準優勝で全国には行けなかった。
今年こそはとサッカー部は盛り上がってる。
悠真が奈良に行くのは龍平おじさんの事だと思う。
それ以外で悠真が奈良に行ったという話は聞いた事がない。
「わかった…。」
高橋君と待ち合わせ場所を決めて部活を終わらせた。
家に帰ってから悠真にメールで連絡をする。
『奈良に行くんか?』
『誰に聞いた?』
『高橋君。』
『そっち行く。』
やっぱり10分程度で悠真が現れる。
「俺とオカンとオトンが住んでたアパートが取り壊しになるんや。だからオカンが見に行きたい言うてんねん。来夢も行くか?」
お父さんとの思い出が無くなるのだと悠真が寂しい顔をする。
そんな悠真に高橋君と悠真が観たい映画に行くとか言えなくなる。
かと言うて悠真の思い出に踏み込むとか、私には絶対に無理だとも思う。
「おばちゃんと2人で行っておいで…。」
「多分、オカンが泣くから辛いんや。」
悠真が苦笑いをする。
実のお父さんの記憶は少ししかない。
私のお父さんとの記憶の方がたくさんあるからと悠真が低い声で呟いた。
だから悠真のお母さんが泣く姿が辛いと言う。
思い出の大きさが違うから泣けない悠真にはお母さんの涙が重くて耐えられないらしい。
「それでも、悠真は龍平おじさんの息子やで…。」
「わかっとるわ。だから、日曜日はちょっと奈良に行って来る。なんかあったら電話しろや。」
それだけを言うと悠真が帰る。