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振り向けば…
第29章 激甘なのに…
「別に暇ちゃうぞ。」
お父さんが笑いながら再びタバコに火を灯す。
「吸いすぎはよくないよ。」
「そうやな。電子タバコとやらに変えるつもりや。」
「一緒やん。」
「一緒ちゃうらしいぞ?お母さんが言うてた。家がヤニで汚れへんから来年はそれに変えてくれて。」
それでお父さんもお母さんもお互いが納得してるのなら良しとしようとか考える。
「悠真のところに行くんか?」
お父さんが聞いて来る。
ここ数年の私の誕生日は悠真とばかり過ごしてる。
「今年は悠真が居ないんよ。急な仕事が入った言うてたわ。」
「東京ってやつか?」
「お父さん…、なんか聞いてるんか?」
悠真が私に話さない事でも悠真のお母さんが聞いてる場合の話がある。
当然のように、その話はお父さんの耳に必ず入る。
「奈美に悠真が東京で暮らせへんかて聞いて来たらしいからな。」
少しだけお父さんが険しい顔をする。
奈美とは悠真のお母さん。
「東京で?」
嫌な汗が背筋に流れ出す。
悠真の仕事相手のほとんどが東京なのは知ってる。
その仕事先の中で一番大きな会社で一番大きな仕事を悠真に発注する会社から悠真は正社員としてのオファーを受けたらしい。
今の年収と変わらない待遇。
しかも正社員なら安定する。
その条件を受けるなら、絶対に悠真は東京に行く必要がある。
「おばちゃんは…、行く言うたんか?」
「奈美の方は今更、知らん土地に行く気はない言うとる。」
悠真がマンションを買うた時も悠真と暮らす事を拒否したおばちゃん。
なら悠真は1人で東京に行くつもりなんか?
私には何も言うてくれへん悠真に悲しくなる。