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振り向けば…
第32章 その弁当が…
岩谷さんの車が私の車の後ろをついて来る。
岩谷さんの家の方角がわからないから会社に一番近いファミレスの駐車場に車を入れる事にした。
まだ6時。
比較的にファミレスが空いてる時間。
「唯ちゃんが待ってるんじゃないのですか?」
岩谷さんに確認する。
「唯は…、連休明けまで京都なんです。」
岩谷さんが寂しい笑顔を私に見せた。
ファミレスに入り食事を頼むと岩谷さんが自分の話をポツポツと話始める。
「僕の家、いわゆる母子だったんです。」
真面目な岩谷さんはお母さんの為に必死に勉強をして大学に行く。
だから女の子と遊んだ事なんかない人。
大学で奥さんと出会った。
岩谷さんが行ったのは経済学部。
「教員免許でも取って教師になればいいくらいしか考えてなかったんです。」
岩谷さんが苦笑いをする。
だけど大阪では公務員の給与と退職金を大幅カットするという行政の方針が決定したという流れが毎日のように報道されてた時期らしい。
悩む岩谷さんは一般就職を考える。
就職氷河期がまだ残る時期。
20件以上の会社を面接して唯一採用されたのがゼネコンだったと岩谷さんが言う。
「妻は喜びましたよ。大手の就職なんか、あの頃は夢みたいな話でしたから。」
就職をしてすぐに結婚。
岩谷さんの人生で一番薔薇色だったと思う。
「唯が生まれてから…、アイツの変化に気付いてやれなかったんです。」
複雑な顔をする岩谷さんが話し辛いのだろうとだけは理解をする。
育児ノイローゼ…。
奥さんは唯ちゃんを育てる自信を失くしたらしい。
岩谷さんは全く建築を知らずに入ったゼネコンでの仕事だけで精一杯の時期。
しかも資格を取る事もままならずに会社内での立場を守る事しか考えられない。