この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
振り向けば…
第4章 笑ろたれや…
冗談じゃないと思うた。
今は6月…。
後8ヶ月で私は受験…。
後8ヶ月でお父さんは完治する約束だったはずなのに…。
「今日…、定期健診に行ったら…、また胃に癌があるのが見つかってん。そのまま入院したからお母さん、今からお父さんの荷物を持って行くねん。」
淡々と低い声でお母さんが言う。
「明日、来夢も病院に行ってやって…、今回の手術は覚悟してくれってお医者さんが言うたらしい。」
「嫌や…。」
「来夢…?」
「嫌や言うてんねん。前回だって覚悟してくれやったやろ!?なんべん覚悟させる気やねん?ええ加減にしてや。私は受験生なんやでっ!」
言うてはいけない事だとわかってる。
だけどもう覚悟という言葉に疲れてた。
10年近く続く不安に耐えられなくなっていた。
ピシャッ!
頬に激痛が走る。
「お父さんかて必死に頑張ってるんやでっ!」
お母さんが私の頬を引張叩いた事だけがわかる。
「だったら…、もう私を巻き込まんといてっ!」
悔しくて携帯だけを握って家を飛び出した。
市民プールがある大きな公園まで走った。
陸上部で毎日走るだけの私は走る事には抵抗がなかったから公園までをひた走る。
公園に着いた瞬間に雨が降り出した。
バラ園に向かう。
ガゼボがあるから雨はしのげると考える。
雨に濡れた身体は寒気がした。
上着を持ってくれば良かったと後悔する。
日中は暑いくらいだけど日が沈み、雨が降るとどんどんと寒くなる。
梅雨やな…。
涙をボロボロと出しながら頭だけは冷静に考える。
携帯にお母さんからの着信が何度も鳴る。
そのうちにお父さんからも鳴り出した。