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振り向けば…
第34章 えへへ…



高速を降りると悠真が山道を走り出す。

ほとんど三重に近い奈良の端っこ。

室生村…。

室生寺…。

そこには日本で多分2番目に古いと言われる五重の塔が存在する。

しかも現存する五重の塔で最小の五重の塔と言われてる国宝指定の文化財の1つだ。

数年前の大きな台風で被害を受けて修復されたとはいえ、その修復は昔ながらの建築方を再現した修復と言われてる。

間違いなく私が興味を持つ建造物。


「悠真…。」

「好きなだけ見ろや。」


お寺に向かう石畳の階段を急いで登る私の後ろをゆっくりと悠真が登って来る。

振り向けば…。

穏やかな顔ではしゃぐ私を見る悠真が居る。

だから私は前だけを向いて進めるのだと思うから前だけを見て階段を登って行く。

お寺の境内はシャクナゲが見頃の季節。


「凄い!」

「昔、高野山が女人禁制やったから、ここに女性が参拝に来てたらしい。だから、なんとなく女性向きの寺って感じがするな。」


悠真がシャクナゲを懐かしそうに見る。


「悠真…、前にも来た事あるんか?」

「オトンが好きやってん。」

「龍平おじさんが?」

「室生は草餅でも有名なんや。よくオトンのバイクで散歩に来てはオカンに草餅を買うて帰った事だけは薄らとやけど覚えてる。」


そんな場所に私を連れて来た。


「最後に来た時もシャクナゲが綺麗やった事しか俺は覚えてないけどな。」


少しだけ悠真が寂しく笑う。


「まだ小さかったんやもん。」


私と悠真が出会った時、私達は小さかった。


「来夢は今も小さいけどな。」

「やかましい!」


悠真が私とじゃれる。

お父さんとの思い出が消えないように、私と新しい思い出を作ろうとしてる気がする。


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