この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
振り向けば…
第43章 何でもない…
人懐こい悠真…。
ただし、必ず他人には一定の壁を作る。
他人が悠真の優しさに調子に乗ってその壁を踏み越えようとすると悠真は完全に拒否を示す。
それは家族扱いの私に対しても同じ。
私が調子に乗れば悠真は容赦なく私を突き放す。
今の藤井さんはいきなり家族の中に踏み込んで来た他人だから、悠真の中で戸惑いが隠せない。
「なぁ…、来夢ちゃん。あの子はどない言うてるの?」
おばちゃんが私に小声で聞いて来る。
「悠真の事は気にせずに、さっさと結婚すればええって言い方でした。」
とりあえずは悠真の気持ちの代弁をする。
「それは無理やわ。あの子が誰かと連れ添わんうちは私が居なくなる訳にいかへん。」
「でも…。」
「あの子に孤独だけは感じさせたくないんよ。それだけは2度としないって決めたんや。」
おばちゃんの決心が痛かった。
幼い悠真が感じた孤独。
父親を亡くし、仕事に必死な母親。
悠真はその孤独で不眠症になった。
孤独から逃げたくて父親が帰って来る事を望み、眠れない子になってもうた。
今も独りになる不安から抜け出せてないのかもしれないと家族の誰もがそう思う。
悠真が私を傍に置きたがる理由がそうなのだろう。
「来夢ちゃんは…、悠真とは…、その…。」
気不味い顔でおばちゃんが私に聞いて来る。
悠真とは付き合う気はないのか?
そんな期待を込めた表情をおばちゃんが浮かべる。
お父さんとお母さんまでもが期待するようにニヤニヤとして私を見る。
「あー…、どうだろ?悠真には、そのつもりがないみたいだし…。」
苦笑いをしてあやふやな答えを言う。
きっと襖の向こうでは寝たフリをした悠真がこの話を聞いてるに違いない。