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振り向けば…
第52章 無事だよ…
電話を切り、廊下の向こう側を見ると私と同じように携帯で電話をする岩谷さんの姿が見える。
唯ちゃんが…。
心配なのだ。
我が家は大人ばかりだ。
だけど、きっと幼い唯ちゃんはお父さんが居なくて心細いはずだ。
「うん、わかった。もう仕事だから切るよ。」
私の電話が終わった事に気付いた岩谷さんが電話を慌てるようにして切ってまう。
「唯ちゃんは?」
「大丈夫です。まだ保育園に行く前だったから母と家に居ます。」
「岩谷さんは社長さんに言うて帰った方が…。」
「大丈夫です。唯からもお仕事頑張ってって言われましたから…。」
気丈に岩谷さんが笑顔を作る。
でも岩谷さんの心配は半端ないはずだ。
ほぼ震源地寄りの岩谷さんの自宅。
うちは岩谷さんの家よりも車で40分程度は震源地から離れてる。
「現場に向かいましょう。」
私の言葉を聞きたくないような素振りで岩谷さんが会社を出ようとする。
1階の事務室の前を抜けようとした。
「森本さんに電話!」
事務のおばさんに呼び止められる。
いつもなら2階の私のデスクに回して貰うけど今日は緊急だから、そのまま事務の電話の受話器を受け取る事にした。
『今日、配送予定の生コンの件です。』
コンクリート会社からの確認の電話だった。
「その予定…、明日に回せますか?」
『そうして貰えると助かります。どうやら高速の通行止めと電車の運行が止まったみたいですから。』
様々な情報で混乱が始まってる。
どうせ現場は安全確認をしなければ下手にコンクリートが届いても流し込む事が出来ない。
『最悪は明日の夕方で良いですか?』
電話回線が不通になればコンクリートを入れるタイミングにも失敗する。