この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
振り向けば…
第53章 この家族…
「冷えてないのでも良ければ…。」
パン屋さんのレジのお姉さんが飲み物を次々とダンボールから出してくれる。
この状況で初めて有り難いと思うた。
冷静に街の人達の為に奮闘する人が居る。
それだけで心強くなれる気がした。
パンを買い車に戻り、岩谷さんとそのパンを齧りながら、まだ遠い次の現場へと向かう。
「普段はアンパンなんか食べないんですけど、焼きたてって旨いです。」
岩谷さんがしみじみと言う。
甘党の悠真はしょっちゅうアンパンを食べてるからクスクスと笑う私が居る。
「なんか変な事を言いましたか?」
岩谷さんが不思議そうに私を見る。
「いえ…、悠真はアンパンが大好きだから…。」
「そうなんですか?」
「あれだけ食べて太らない体質だから羨ましいの。」
「女性はすぐに体型を気にしますね。唯ですら太るとやだとか言うんですよ。」
「唯ちゃんも女の子だね。」
岩谷さんと笑う余裕が出て来る。
渋滞にイライラとして事故などを起こせば最悪の事態に陥る。
だから無理をしてでも2人で笑う。
なんとか渋滞の中を次の現場に辿り着くと、そこは無人の現場だった。
私の現場ではあるが、一応は岩谷さんが監督を務めるという現場…。
新築戸建てが4建分立ち並ぶ現場はまだ棟上げが終わったばかりで足場が周りに組まれてる状況だ。
ゼネコン時代は戸建てを中心に仕事をしていた岩谷さんだからと任せた現場だった。
「職人さんは?」
私の問いかけに岩谷さんが困った顔をする。
「多分、電話が不通だから自己判断で帰ったのだと思います。」
別にそれは間違った判断ではないから岩谷さんを責めるつもりはない。