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振り向けば…
第6章 俺だけ見てろ…
先輩の身体が宙を浮く側転。
長い袴がバッと開き誰もが目を見張り魅せられる。
「凄い…。」
そう呟いた瞬間、私の目の前が真っ暗になる。
「ちょっと…!」
何すんねん?
そう言う前に不機嫌な悠真の顔が見える。
私の目を悠真の大きな手が塞いだのだ。
「俺だけ見てろって言うたやろ?今だけは他の奴は見んな。」
低い声で悠真が言う。
団長のソロに合わせて私と悠真は1年代表として団長の後ろで踊るからだ。
団長ほどではないけれど、これはこれで目立つパートではあるから失敗は出来ない。
溝口先輩の後が私達。
悠真だけに集中する。
内海さんと付き合うてるくせに…。
もう私を見てないくせに…。
真っ直ぐに私を見て踊る悠真にイライラとする。
何もかもが見えずに悠真だけを見て踊る。
そこには溝口先輩も日下先輩も居なかった。
内海さんも居なかった。
私と悠真だけの世界だった。
「失敗しなかったな。」
悠真が穏やかな笑顔を私に向けた瞬間、グランド中から割れんばかりの拍手が沸き起こった。
「へっ?」
「もう終わったぞ。溝口先輩が待ってるから行ってやれや。」
悠真が私に背を向けて立ち去った。
体育祭が終わった。
応援合戦は溝口先輩の組に負けたけど総合ではうちの紫組が優勝した。
「打ち上げに行こう。」
クラスが盛り上がり、振替休日の月曜日の夜は焼き肉に行く事になる。
中学の時によく行った映画館のある駅での待ち合わせに悠真と行く。
久しぶりに乗る電車。
空いているにも関わらず、悠真はやっぱり座らない。
「お前だけ座っててええぞ。」
そう言ってドアの前に立つ悠真に小さく横に首を振ると悠真が私の肩を抱く。