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振り向けば…
第55章 断る…
ご主人が生存だった頃は裕福な家庭だったから…。
その感覚が抜けないお嬢様な娘なのだと老婆が嘆く。
前の私なら、きっと同情をしてそんな老婆を助けたいと思うてた。
今の私は…。
「もう1度だけ営業の方から見積もりに来させますから、そちらの予算をはっきりと言うて下さい。当社はあくまでも、その予算に合わせた外構工事を行いますから後から手抜きだなんだと言われるのは当社としては迷惑です。」
淡々と老婆に話を進める。
情けを失くすつもりはない。
それでも悠真と結婚したいならば私は仕事は仕事だと割り切り余計な同情で時間を無駄にすべきではないのだと、つくづく思う。
私と宮崎さんに何度も平謝りする老婆を見ても心が動かない。
私は仕事をするだけだ。
ただし…。
「道路側に崩れた壁の部分撤退は明日にでも行うように手配します。警察から注意を受けたらその旨を伝えれば大丈夫です。」
老婆が辛い立場にならないようには手配をする。
私の言葉を聞いてた宮崎さんが仕事の手配をしてくれると信じてる。
崩れた壁の道路側でさすがに車の通行の妨げになるかもしれない瓦礫だけを宮崎さんと2人で壁の内側に移動をさせた。
「随分と遅くなったけど、昼飯でも食うて帰るか?」
宮崎さんが私に気を使う。
「すみません…、今日はもう帰りたいです。」
宮崎さんの気持ちは有り難いけど早く帰ってもう1度悠真と話し合いたいとばかり考える。
宮崎さんと会社で別れて急いで家に帰る。
とにかく今は汚れた作業服を脱ぎたい。
汚れた作業服を見れば、また悠真が私に悲しい顔をすると思うから…。
仕事と悠真のどっちが大切だとかいう問題じゃないのはわかっとる。