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振り向けば…
第7章 いつか連れてったる…



悠真には会わない。

黙ったまま悠真の家のドアノブにチョコレートの入った紙袋をぶら下げる。

さっさと自転車に乗ってお父さんが居る病院へと向かう。

小一時間はかかる道のりをゆっくりと自転車のペダルを踏んで進んで行く。

お父さんの病室の前で深呼吸をして息を整える。


「お父さん?」

「来夢か?」


お父さんの病室はいつも個室。

ベッドに行きチョコレートを渡す。


「まだチョコレートは食べられへんのや。」


知ってる。

手術をしたばかりでひと月くらいは普通のご飯を食べる事が出来ない。


「冷蔵庫に入れとけばええやん。」


どうせ半年は入院する。

手術の後は抗癌剤による投薬治療が続く。


「ありがとうな。」

「お父さん…。」

「ん?」

「抱っこして…。」


穏やかに笑うお父さんが私を引き寄せて抱っこしてくれる。


「お父さんが世界で一番好きだよ。」

「ああ、わかっとる。まだまだ悠真には負けん。」


なんで悠真が出て来るねん?


「悠真なんか一生お父さんには勝たれへんわ。」

「そんな事ないやろ?あれは龍平にそっくりや。」


学校で確かに悠真はモテるのかもしれないとは思うけど悠真には誰に対しても愛情がないとも思う。


「そろそろ行くよ。」

「気を付けて帰れよ。」

「また来るから…。」


今回はマメにお父さんの病院に通うてる。

私以上にお母さんに疲れが見えるから…。

病院と我が家の真ん中くらいに溝口先輩の家がある。

先輩の家の前で立ち止まる。

緊張して呼び鈴が押せない。

チョコレートの紙袋だけを置いて逃げ出したくなる。


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