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愛里 ~義父と暮らす小学六年生~
第2章 ゴールデンウィーク。旅行一日目
「旅行?」

 都内のマンションの十階の中にある一部屋。愛里と母親の綾香、そして綾香の再婚相手で養父である幸彦の三人が暮らす2LDKのマンションの、そのリビングルーム。

 足の裏に柔らかいカーペットの上のローソファに幸彦と綾香が並んで座り、愛里はカーペットに置かれた円形のクッションの上にちょこんと座っている。春になって小学六年生になった。

 三人が囲むガラステーブルの上には、幸彦が取り寄せたあるペンションのパンフレット。

「ゴールデンウィークに皆でどうかなって」

 柔らかい笑顔で幸彦が言うと、綾香もおっとりと微笑む。

 ソファに並んで座る二人は、娘である愛里が見ても幸せそうだ。綾香の、こんな穏やかな笑顔は今まで見たことがないかもしれない。

 義理の父である幸彦は綾香の小学生の時のクラスメイトで、ことあるごとに「愛里ちゃんはお母さんの子供の頃にそっくりだね」と言う。

 なるほど、写真で見る限りよく似ていると思う。綾香のほうがちょっと目が細い分だけ優しい顔立ちをしている。

 性格も、穏やかでふんわりとした綾香に比べて自分は活発だと思う。

 小さい頃に父親はいなくなった。母親である綾香は病弱だ。
 そんな母を幼いながらも懸命に支え続けた。

 そのせいか、愛里は元気で活発な子になった。
 今、綾香が見せているような穏やかな笑顔は自分にはきっと出来ない。

 …それだけ幸せなんだね、お母さん。

 思えば親子で旅行なんてしたことないかも。だってうち、貧乏だったしね。
 
 綾香はパンフレットを見て、すでに旅行に想いを馳せているようだ。
 幸彦も、そんな綾香に旅行のプランを楽しそうに説明している。
 
 もちろん、愛里も旅行に行きたい。

 でも私、お邪魔にならないかな。

 そんなふうに考える、少しおませさんな愛里は、それでも初めての旅行にワクワクしはじめた。

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