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姦譎の華
第4章 4
 どうやら光瑠はまだ、父親へ結婚の件を伝えていないらしい。むろん、ここで自分の口から報告するのもおかしな話だから、多英は二人を見つめてはにかむだけだった。

「光瑠君も超大物を釣り上げたもんだ」
 しかしそれでも、幹部は手を離してくれなかった。「こりゃ号外もんの大スクープじゃないか? 週刊誌に嗅ぎつけられる前に内閣官房に入れといたほうがいいかもしれんね」

 敏光は冗談へ笑ってみせ、如才ない仕草で愛紗実へ合図すると、

「今エレベータの中で聞いたんだけど、児島さんの娘さん、誕生日がもうすぐらしい。藤枝君なら旨いケーキの店、よく知ってるだろう?」
「はい、それでしたら……」

 スマホを覗かせながら、子飼いたちを幹部からうまく距離を取らせる。
 一瞥が送られてきた。

「奥原様」
 やっと離しそうになってくれた幹部の手を、添えていた左手で引き留めた。「実はわたくしどものほかにも是非お話を伺いたい者がおりまして、このあともお時間ございますでしょうか。あいにく品川までご足労いただくことになるのですが」

 トーンを低めに変え、カードキーを握らせる。このホテルのものではない。幹部はそれで一切を察してくれたようで、唯一鋭かった眼光まで濁らせ、鼻の穴を大きく膨らませた。

「先にお部屋でお待ちいただければ、その者が参ります。お飲み直しがございましたら、ご自由にオーダーしていただいて構いません」
「そりゃ至れり尽くせりだねぇ。しかしどんな人がくるのか教えておいてほしいな。案外人見知りなんだよ」
「恐れながら、野村より万事伺っております。ご安心くださいませ」
「野村ちゃんが僕のことをどんなふうに伝えているのか不安だね。というより、実は華村さんがやって来る、なんてことはないのかい?」

 あきらめが悪い。

 会計は愛紗実と自分の分は敏光が払ったが、幹部との間では完全に割り勘だった。いざという時のために領収書も残してある。幹部の支払い分は、ホテルを訪れる勉強熱心なプロが携えた、飲み代をはるかに上回る額の「受講費」で補われる手筈となっている。ここまでもてなしてやるのだから、そろそろ良しとして欲しい。
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