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姦譎の華
第31章 31
 風俗でもしたことがなかったバックスタイル。読んできた漫画や攻略してきたゲームの中で、誇り高き美女が牡欲の前にひれ伏し、快楽欲しさに慎みを忘れてヨガり狂う。あくまでもフィクションの世界の話だと割り切っていたのに、五感の全部で現実のものとなっていた。ギャラリーたちに見せつけながら、嫋やかにくねる腰を抑えつけ、無防備に差し出された割果へ思うがままに肉槌を抜き挿しし、そしてついに、イかせてくださいと叫ばせたとき、生まれて初めて誇らしさというものを実感した。

 自分は、誇りを取り戻したかったのだ──

(はあっ……、た、多英……、多英……、さま)

 青信号が点滅し始めた。我が物にしてやろうとしていたヒップは、あいかわらず目の前で揺れている。
 稲田は愛紗実の元に運ぶ足を急がせた。

 クンと進むスピードが上がって、島尾の抱える手にも力が入った。
 早くあそこへ連れて行かなければ。

 ここへ来る前、初めて多英の唇が肉茎に触れて、やはり、とても離れることはできないと思った。不潔な首回りを、口で慈しんでくれた女なんていなかった。店は尺八サービスを設定していながら、何かと理由をつけて手淫だけで終わらせてきた風俗嬢たちを、今からでもいい、不当営業で全員訴えてやりたい。豪流となった牡汁が肉茎ごと押し流してしまうのではないかというほどの瀉悦。あれを知ってしまっては、また、檻の虜下となるのも悪くはないと真面目に思う。

 島尾は『美人すぎる秘書』の横顔を盗み見た。

 この女のほうにも、自分に対する好意が芽生えたのではないか。女というものは、最初は好きではなくとも、好意を伝えられていくうちに自分も好きかもと思ってしまうものだ。ましてや何度も交わって目眩く快楽を味わされたなら、気持ちの変移に拍車がかかり、心の中に棲まう男たちの中で最も大きな存在になる。この顔、この図体でありながら、これほどの女が何故、と巷を騒然とさせるような……。

 だがそれは、幻想にすぎなかった。
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