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姦譎の華
第5章 5
 島尾は問いには答えず、フロアの奥を顎で指した。その名の通り、特別応接室はエグゼクティブクラスが来社した際にのみ使用される部屋だ。施設予約、開錠ができる者は限られており、島尾と稲田には権限が無かった。もちろん、社長秘書にはある。

「そんなところ使わなくてもいいでしょう? ですから、いまさら酒井さんの件は──」
「それじゃ済まないからここに来たんでしょう、華村主任」

 言葉を遮られて、女は眉山をいからせた。

 島尾は黙って形相を見据えていた。実はもう一度拒まれたら次の打つ手を考えていなかったのだが、しばらく対峙していると、女は何も言わずに一枚だけ色の異なるドアへと向かった。

 カードリーダーを読ませ、先に中へ入っていくのを見届けた島尾は、逆剥けの浮く唇を一回し舐めた。
 今日の俺はツイてる。
 急ぎ自分も向かおうとしたところで、稲田がぼーっと突っ立ったままであることに気づき、

「ほら、稲ちゃん!」

 どうだ見たかと尻を叩く。

「あ、……はい」

 促された稲田は夢見心地で足を踏み出した。島尾に対する感謝や尊敬の念は一切湧いていなかった。そんな余裕はない。

 本当に、憧れの社長秘書は計画どおりに終業後の社屋へとやってきて、計画どおりに特別応接室へと導かれた。トップシークレットが扱われることもあるその部屋は、高い遮音性が確保されている。女性一人で、男二人と──脅迫メールを送り付けてきたような輩と密室へ入ることの危うさを、あの方がわからないはずはない。

 残り香を嗅ぎ辿るようにして部屋へと入ると、すでにコートを脱ぎ、躊躇なく選んだのだろう、ソファセットの上座にかけていた。玉座のような尊大な座り方ではなく、浅めに腰掛けて姿勢よく背を伸ばし、斜めに揃えた脚の上に両手を重ねている。上品な居姿だが、威厳は女王が為すものに遜色なかった。渋々ながらも部屋に入ったということは、メールの内容は、この人にとって看過できないものだということだ。なのに、外見からは怯みも焦りも、全くもって窺うことができない。

「……お話の続きを」

 島尾は後輩が携えていたマチ付封筒をひったくり、書類を取り出しながら対座へと着いた。

「これを見てほしいんですが」

 手渡すと、女は長い睫毛を伏せ、素早く目線を走らせ始める。

「出納記録ですね」
「そうです。例の横領の件の」
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