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姦譎の華
第5章 5
最後のページまで見た女は、資料をテーブルの上に置き、スッと島尾たちの方へと差し戻してきた。
「こちらは一度見ています。経営会議で使ったサマリの典拠ですから。見たところ、その時から特に変わりはなさそうですけど」
すべてに目を通したかはあやしかった。いくら有能であっても、日付と金額、番号の羅列を、そこまで早く確認できるとは思えない。
「でも変なとこありませんでしたか?」
「いいえ。そもそも、あれば経会前に気づいています」
敢えておかしな点はないかと訊いているのに、もう一度手に取って確かめることなく、即座に「無い」と断言することこそおかしい。
「ですが──」
「ところで島尾さん」
引き続き揺さぶろうとした島尾を、一段と温度を下げた瞳が見据えてきた。
「この資料は誰でも見て良いものではありません。出納情報を参照する権限はあなたにはないはずです」
同じ会社にいながら、社長秘書と密に言葉を交わしたことなど記憶にない。総務の雑用にすぎない自分なんて憶えてないと思っていたのに、名を呼ばれた島尾は心が浮き立つのが否めず、
「あ、ああ、それはこいつが……」
これじゃまるで稲田みたいじゃないか、と自嘲しつつ隣の当人へ親指を向けた。
後輩が口を開くのを待ったが、無言の間が続いた。
稲田は前方にある脚に釘付けだった。LEDを浴びた膝頭が照っているが、実は脚自体が光り輝いているのです、と言われても、何ら不思議ではなかった。
揃えられた膝下が、座面から平行に伸びる太ももの裏側を絶妙に隠している。上部では丸い肌面がスカートとの間に逆三角の暗がりを作っているはずだが、資料を取った時も、読んでいる時も、返した時も、必ずどちらかの手でしっかりと塞がれていた。
「……稲田さん?」
「ひっ……!」
無礼な視線を咎められたのかと思った。と同時に、自分の名前を知っていてくれたことに感動するあまり、
「こちらの資料はあなたが?」
「え、ええ、はいっ。そ、その、横領の件でリストを作るように、いっ、言われまして、その、とき、のものっ、です……」
息詰まらせながら、何もかも馬鹿正直に話してしまった。
「こちらは一度見ています。経営会議で使ったサマリの典拠ですから。見たところ、その時から特に変わりはなさそうですけど」
すべてに目を通したかはあやしかった。いくら有能であっても、日付と金額、番号の羅列を、そこまで早く確認できるとは思えない。
「でも変なとこありませんでしたか?」
「いいえ。そもそも、あれば経会前に気づいています」
敢えておかしな点はないかと訊いているのに、もう一度手に取って確かめることなく、即座に「無い」と断言することこそおかしい。
「ですが──」
「ところで島尾さん」
引き続き揺さぶろうとした島尾を、一段と温度を下げた瞳が見据えてきた。
「この資料は誰でも見て良いものではありません。出納情報を参照する権限はあなたにはないはずです」
同じ会社にいながら、社長秘書と密に言葉を交わしたことなど記憶にない。総務の雑用にすぎない自分なんて憶えてないと思っていたのに、名を呼ばれた島尾は心が浮き立つのが否めず、
「あ、ああ、それはこいつが……」
これじゃまるで稲田みたいじゃないか、と自嘲しつつ隣の当人へ親指を向けた。
後輩が口を開くのを待ったが、無言の間が続いた。
稲田は前方にある脚に釘付けだった。LEDを浴びた膝頭が照っているが、実は脚自体が光り輝いているのです、と言われても、何ら不思議ではなかった。
揃えられた膝下が、座面から平行に伸びる太ももの裏側を絶妙に隠している。上部では丸い肌面がスカートとの間に逆三角の暗がりを作っているはずだが、資料を取った時も、読んでいる時も、返した時も、必ずどちらかの手でしっかりと塞がれていた。
「……稲田さん?」
「ひっ……!」
無礼な視線を咎められたのかと思った。と同時に、自分の名前を知っていてくれたことに感動するあまり、
「こちらの資料はあなたが?」
「え、ええ、はいっ。そ、その、横領の件でリストを作るように、いっ、言われまして、その、とき、のものっ、です……」
息詰まらせながら、何もかも馬鹿正直に話してしまった。