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姦譎の華
第6章 6
「ど、どうだ、びっ、美人すぎる、社長秘書、さんよぉ……。オ、オッパイ揉まれてどんな気分だ」

 憂苦が吐息となって漏れ出たのだと思った。たとえ貧弱な表現でも、言ってやらなければ気が済まなかった。

 開いた十指を押し込み、歪んで押し出された凸面を掌中で受け止める。不粋な触りかただが、風趣なんかを気遣う必要はなかった。いくら揉んだって、どう揉んだって、指名時間がどうだの、力が強すぎるだの言われることはない。

「おら、な、なんとか言ってみろよぉ……」
「……女を脅すのも、一人じゃできないのね」

 苦悶に一層濁った声で、許しを請うてくると思っていた。
 だが、さっきの呻きは何だったのかというほど、女は軽侮を滲ませて淡々と言ってのけた。

「ああっ!?」

 悦に入りかけていた島尾は冷水のような一言を浴びせられ、かえって身が熱くなるのを感じた。背丈からは考えられないほど細く締まったウエストから裾が引き出されてしまうまで、シャツを大きく歪ませ、つかみ、回し、揺らした。手のひらだけでなく、手首、腕、肘脇肩の筋肉と関節を使い、思いつくだけの動きをぶつける。

「おらっ、どうだっ……こ、このやろっ」
「っ……、もっと優しくできないの?」
「くっ、う、うるせえっ!」

 優しくしてほしいなら、そうしてほしいなりに悲鳴をあげるか、しおらしく胸を差し出せばいい。不正を公にされる以上の引け目があるから要求に応じたくせに、バストの揉み方ひとつ取っても技量というものがあるぞと、愛撫の拙劣を馬鹿にするなんてふざけている。

 女がよろめくのも構わず、島尾は出来る限り体を密着させた。腹のメタボリックぶりが伝わろうが気にせず、闇雲に揉みしだいた。

 自分も冤罪に遭いそうになった痴漢や、強制性交等罪で捕まる奴ら。ニュースを見ていると、「ムラムラして思わずやってしまいました」、そんなとんでもない理由を述べるのは、自分と同年代が多いように思えた。

 見かけるたび、島尾も鼻で嗤いはしてきた。しかし心のどこかで、彼らへの共感と同情を禁じ得なかった。
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