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姦譎の華
第7章 7
「ママね、ちょっと夜に働こうと思うの。寂しい思いさせるかもしれないけど、……我慢できるよね?」

 寂しい思いはさせないと言っていたのも嘘だったのか、とは責めようもなかった。雇止めに遭っても引き続き「いい仕事」は見つからず、すかすかの冷蔵庫は、親としての宣誓なんかに拘っている場合ではない逼迫ぶりを、雄弁に物語っていたからだ。

 そうして、母は学校から帰ってくると入れ替わりに出勤していくようになった。

 この時初めて、母が渾身に化粧をし、着飾る姿を見た。とても綺麗だね、と褒めると、「支度金が出たから奮発しちゃった。若返ったかな」と、鏡にもう一度全身を映していた。久々に見た自身の華やぎが嬉しく、はしゃがずにはいられなかったのだろう。

 気不味そうに切り出してきた様子から、新しい仕事は子供にとっては決して「いい仕事」ではないのだろうと憶測できた。けれどもしばらくすると夕飯の品も冷蔵庫の中身も回復していくし、暗くなっていた母が溌剌とするようになったから、我が家にとっては「いい仕事」なんだと思うことにした。

 よそとは違うかもしれないが、些細な違いだ。自然とそう思える日が、早いうちに来るだろう、と──

「──ママ、具合悪いの?」

 或る日学校から帰ると、母が西陽の射す居間で顔にタオルをかけて仰向けでいたものだから、ランドセルを背負ったまま駆け寄った。

 引き続き、母は目に見えて華やいでいた。まあそういう仕事なのだ、と朧げながらに理解はしていたが、それを差っ引いても、必要にかられてというより、外で働くようになって家にいた時には滞っていた「自分磨き」とやらを、心底楽しんでいるようにしか見えなかった。やり過ぎだ、と諌めるタイミングを子供が計れるはずもなく、収入は母のためだけに使われ始め、冷蔵庫の中身はまた減っていた。夕食の品数は減るのではなく、イベントそのものが一日のスケジュールから姿を消した。

「ね、ママ、大丈夫?」
「……んー。今日と明日はおやすみなの」

 なんだ。
 ホッとしたら、腹が鳴った。

 昨日冷蔵庫を開けたら調味料ぐらいしかなく、何も作れずに抜いていたから給食だけでは足らなかった。女同士、しかも相手は母だから赤面する必要はなかったが、別種の恥ずかしさを覚えつつ、
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