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姦譎の華
第7章 7



 自分には、母を恨む理由があった。
 そして母にも、自分を恨む理由があった。

 最初のうちは、父母のあいだに勃発した険悪なムードを感じ取り、不安そうに、悲しげに注意を引くことで、口論を中止させることができていた。

 子供にしてみれば、目先の喧嘩が収まりさえすれば、それでよかったのだ。

 つまり根本的な解決にはなっていないので、やがて拙い回避策は通用しなくなり、諍いはなかなか収まらず、より激しくなっていった。

 少なくとも父のほうは、嘘の結論でもいいから早く事を収めたいようだった。しかし母は終わりそうになってもまた蒸し返し、とにかく執拗に絡んだ。両者納得の上でけじめをつけ、すがすがしい解決を導きたいというより、何か喧嘩の本因とは別のところに拘泥し、誰が不利益を被ろうが知ったことではない、自分が望む結論だけを追い求めていた。その歳の自分でも感じることができたくらいだから、父はもっと辟易としていたことだろう。

「子育ても……、家のこととかも、ずっと、ぜんぶ、私がやってきたのに……頑張ってきたのに、なんで私がこんな目に合わなきゃいけないの!!」

 何度口論を繰り返そうが、自分が望む形には絶対にならないとわかったとき、母は叫喚してつかみかかった。

 そして呆気なく弾き返された。
 地べたに膝をついて泣き伏す母を、父にしては珍しい大声が罵った。

 これからは二人で頑張って生きていこうね、ママだけになっても寂しくないよ、いっぱい可愛がるから、何不自由なく、いっぱい幸せにしてあげるから。

 ほどなくして父は出て行き、かたく抱きしめる母は呪詛のように繰り返してまた泣いた。

 しかしいつまでも泣いて呪っている場合ではなかった。母は近くの町工場の事務として勤め始めたが、身を削るに見合うだけの身入りは得られなかった。もっと「いい仕事」を探すも見つからず、泣いて誓ったばかりだというのに、早速夕飯の品数に不自由するようになった。あまりにも辛そうだからなぐさめようと、「私が男の子じゃなくてよかったね。あんまり食べないから」と言ってみたが、母はぎこちなく笑い、余計に傷つけられたようだった。
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