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旧家のしきたり
第2章 嫁試し
「それじゃあ、なんで……」

「美穂さんが素晴らしい女性だからこそ、私はこの結婚に反対しているのです。

蔵森家は歴史ある古い家です。私が当主になるまで、400年の間、すべて男の人が仕切ってきました。男中心に考えられてきたのです。

ですから蔵森家の決め事の中には、女性に大変な屈辱を強いるものが少なくありません。私は蔵森の女として、そうした屈辱に耐え、蔵森の家ために尽くしてきましたが、それはとても辛いものでした。

私が当主になったからといって古くからのしきたりや慣習を簡単に変えることはできません。美穂さんがお嫁にくれば、私が経験したことと同じ経験をすることになるでしょう。

私は、美穂さんにそんな辛い思いをさせたくない。女性としてもっと素敵な人生を歩んでもらいたい。そう思っているのです」

「女性に屈辱を強いるものってどんなものですか?」

「それは言えません。他家に蔵森の秘事を漏らすべからず……これもしきたりの1つです」

「そんな……」

「もう一度言います。私は、あなたたちのためにこの結婚に反対します。それがあなたたちのためだからです」

そう言い切ると、母は背筋を伸ばし、僕たちから視線を外して、顔をまっすぐ前に向けた。取り付く島もない、まさにそんな感じだった。

返す言葉が見つからない。母の勢いに僕は完全に負けていた。部屋が静まり返った。
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