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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第3章 器用さの問題
(……あ!!)
奇しくも、ビスカスの帰宅とリアンの訪問が重なった、その日。
朝から内心そわそわしていたローゼルは、玄関に誰かが到着した音を聞いて、急いだ様に見えない程度に急いでそこに駆け付けました。
リアンの住まいは、遠方です。予定では、ビスカスが先に着く筈でした。
「……リアンっ!?」
「ご無沙汰しております、ロゼ姉さん」
にこやかな微笑みを浮かべて玄関に居たのは、従兄弟でもある見合いの相手でした。
リアンはローゼルの記憶にある少年の面影を残してはおりましたが、会わない間にすっかり大人になっておりました。
「いらっしゃい、お久し振りね。着くのは夕方では無かったの?」
「予定では、そうだったのですが……姉さんにお会いするのが楽しみ過ぎて、早く着いてしまいました」
「ようこそ、リアン」
「リアン、久し振りだな。よく来てくれた」
「叔父さん、タンム兄さん!ご無沙汰いたしております。今回のお招き、有難う御座います」
「まずは中に入って、ゆっくりお茶でも」
「只今戻りました」
(ビスカスっ!)
主玄関では無く、裏から入ったのでしょう。その声は背後から聞こえてきました。
久し振りに聞く声にローゼルが振り向くと、久し振りに目にする姿が有りました。けれど、何故だか声が出せません。ローゼルにはビスカスの名を呼ぶことも、お帰りと一言掛けることも出来ませんでした。
「おお、ビスカス!良く戻ったな……ローゼル?」
「はい。」
父に名を呼ばれたローゼルは、夢から揺り起こされた人の様にビクッと震え、それと同時に声が口から零れ落ちました。
「先にリアンを部屋に案内してやってくれるか?悪いがそのあと居間で話そう、リアン」
「はい、叔父さん」
「分かりました、お父様」
「頼んだぞ、ロゼ。……ビスカス、来い。話が有る」
「はい、旦那様」
(……何日振りかしら?)
病み上がりのせいでしょうか。
父と共に遠ざかって行く後姿は、ローゼルが良く知っているビスカスとは違って、落ち着いて物静かに見えました。
しかも、客が来る為に誰かが気を利かせて届けたのか、いつも着ているだらっとした仕事着ではなく、盛装とまでは行かないものの、それなりにきちんとした服を纏っておりました。言葉遣いも、丁寧です。