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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第3章 器用さの問題
(……でも、お前、どうしてっ……今日に限って、ちゃんとしてるのよっ……!)
ビスカスは普段、普通の服を着ることが滅多にありません。だらだらずるずるした服を着ているか、夏に至っては上半身裸な事さえ良く有ります。
誰にも言ったことは有りませんし自分でも認めたくは無いのですが、ローゼルは滅多に見られないきちんとした格好のビスカスを見るのが、密かに楽しみで有りました。
ビスカスは小柄ではあるものの、護衛を仰せつかる様な人間です。見た目だけの為に整えたのではない、実用向けに鍛えられた引き締まった体を持っています。ローゼルの肖像画を描きたいとやって来る画家達にモデルにならないかと熱心に誘われては逃げ回っている位なので、美しい肉体を持っていると言っても、決して過言では有りません。
しかし、非常に残念な事に、ずるずるした普段着のビスカスは猿回しが連れている陽気で愛嬌が有るだけの猿にしか見えませんし、裸のビスカスは大抵態度がふざけているので、人の食べ物を狙って掠め取りに来るおちゃらけた野猿にしか見えません。
けれど、きちんとした格好をしている時のビスカスは、ローゼルの目にはいつも別人の様に男振りが良く見えて居りました。
ちゃんとした時のビスカスを評価しているのは、ローゼルだけでは有りません。ビスカスは体に合わせて仕立てたピシッとした服を纏うとおそろしく良く似合う上、そういう時は下ネタや詰まらない冗談等の余計な口を叩く事が少なく言葉遣いも丁寧なので、サクナを初めとする親しい人々からは「ビスカスは大化けする」と言われたりしています。
きちんとした時のビスカスは、ご婦人方にひそひそ噂をされたりする事も良く有りましたが、そういう事に遭遇すると、ローゼルは何故だか腹が立ちました。
披露目の会の時のスグリ姫の様に、あっけらかんと「素敵ねえ!」などと誉められるのを聞いてもそれほど腹は立たないのですが、ひそひそと影で囁かれたり、何か適当な口実で話し掛けられたりしているのを見ると、不思議にムカムカ致しました。
ビスカス本人がそれについて「俺がちゃんとしてるなぁ珍しいし貴重ですもんねーwww」などと全くの珍獣的興味にしか捉えていないのも、ローゼルの腹立ちの火に油を注ぎました。