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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第1章 大きさの問題
 それにビスカスはお相手と「いちゃいちゃベタベタしてると言われる」とも言っておりました。サクナと常に無意識にいちゃいちゃベタベタしている姫が、ビスカスとも同じようにしているとは、考えにくいことでした。
 もしもスグリ姫がそんな事をしているとすると、男二人を手玉にとって周りに気付かれない様にめろめろに惚れさせている、大変な悪女……という事になります。

(…………無いわね。それは、無いわ)

 ローゼルの脳裏には、スグリ姫のあの小動物の様な、ぽやぽやーんとした力の抜ける笑顔が浮かんでおりました。あれが悪女なら、世も末です。天地がひっくり返るでしょう。

(……それで、ドレスを)

 スグリ姫への疑惑は捨て去ってビスカスの話の続きを考え始めたローゼルは、頭に血が上りました。
 ローゼルは昨日した口付けですら初めてだったのですから、男女のあれこれの経験は、全く有りません。けれどさすがに妙齢の年頃ではあるので、睦み合う男女がどんな事を致すのかは、朧げながら聞き知っては居りました。

(ドレスを、着せたままっ……で、汚す、ってっ……!)

 ローゼルの頭の中には、スグリ姫に似た女とビスカスがそれらしい事をしている姿が、勝手に浮かんで来ました。が、細かいところは曖昧ですし、二人の顔も浮かびません。女の方はどこの誰なのか知らないので当然なのですが、ビスカスの顔も、浮かばないのです。
 その理由に思い当たったローゼルは、愕然としました。
 ビスカスとはずっと一緒に居ましたが、ビスカスの男としての顔を見た事など、一度も無いことに気付いたからです。ローゼルの知っているビスカスは、兄の様であり母の様であり使用人であり護衛でもありましたが、男として女を求める恋人の様であった事は、只の一度も有りませんでした。
 命が危なかった昨日ですら、口付けを交わしてさえも、ビスカスはローゼルを女として求めている様な顔など、一瞬たりとも見せませんでした。
 それなのにローゼルは、口にしさえすれば女として愛される事が叶うと思っていたのです。そんな自分は、何と愚かで傲慢だった事でしょう。

「……馬鹿っ!最低っ、嘘吐きっ!!」

 ローゼルの目からは涙が零れて、シーツを濡らしました。それは相変わらず悔しい涙なのか悲しい涙なのか分かりませんでしたが、自分が今苦しくて堪らない事だけは、嫌と言う程感じていました。
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