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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第10章 痛みの問題
「そうだ。二人に言って置かないといけない事が有る」
兄の言葉に、ローゼルは追憶から引き戻されました。
「私がやる予定だったロゼと親族として踊る相手は、ビスカスに変更になった」
「え」
「あいつに?どうして?」
タンム卿からビスカスとの交代を聞いて、ローゼルは驚き、リアンは眉を寄せました。
「昨夜足を傷めてね。立ったり歩いたりするには支障は無さそうなんだが、踊るののは難しそうなんだ」
「そう……」
「だからって、何であいつなのさ」
「私を除くと、出席者の中でロゼと踊れそうなのは、ビスカスだけなのだよ。兄は不在だからね。ビスカスは私とロゼの踊りと君達の踊りで歌う事になって居たんだが、前半は私と交代だ」
「お兄様。ビスカスは、了承したの?」
「ああ。断られたらサクナに頼んでみようと思っていたが、出席しない人間に急に頼むのも迷惑だからね。助かったよ」
「あいつで大丈夫なの?背だってロゼより低いじゃないか」
「リアン、ビスカスは」
「ビスカスは私が初めて優勝した時の相手だったのよ。ビスカスには背なんて関係無いわ」
リアンの不満に答えかけたタンム卿を、ローゼルが固い声で遮りました。婚約式を控えた二人の小さな諍いに、タンム卿は苦笑しました。
「リアン?婚約や婚礼の踊りには、背の高さは関係無いよ。競技会だと見た目の審査が有るから、男の方が背が低い組み合わせはほとんど居ないがね」
「……それじゃ、仕方無いな」
リアンは諦めた様に呟き、ローゼルは溜め息を吐きました。
(ビスカスと、踊るのね……何年振りかしら……)
ローゼルはサクナから、ビスカスがこの地を離れると聞かされておりました。笑顔で見送ってやってくれ、とも。
(こんな風に、叶うかもしれないなんて)
サクナの婚約披露の時、ローゼルはビスカスが踊りの相手になってくれなかった事を、子どもの時の約束を持ち出して責めました。その時の事が不意に甦ってきて、ローゼルは唇を噛みました。あれからまだ一月も経って居ないのです。
(……幸運だと、思わなきゃ。どんな形であれ、お別れの前に約束が叶う事になったのだから)
「親族との踊りは、前座みたいなものよ。最後に踊るのは、リアンとだもの」
ローゼルはにこっと笑顔を作ると、婚約者の方に手を差し出しました。
「参りましょう、リアン。そろそろ式のお時間よ」