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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第2章 仕方のない問題
「……断られた。」
「え?」
「断られたのよ!!結婚は、無理だってっ……」
ローゼルに枕越しに呻く様に告げられた言葉を聞いたタンム卿は、殊更驚きませんでした。ただ、あいつでさえも腰が引けたのか、とあっさり思っただけでした。
無理もない事です。ビスカスにとってローゼルは、生涯仕える主では有ったのでしょうが、生涯を共にする妻として愛せる女では無かったのでしょう。
ローゼルが痛ましくビスカスが腹立たしくとも、長兄の廃嫡は、今更どうにも出来ぬ決定事項です。
廃嫡の原因になった事件は、この家ではなく、サクナの屋敷で起こりました。しかも、屋敷の当主の婚約者であり都の姫君でもあるスグリ姫が、巻き込まれたのです。対処を間違えば領主家が潰されても不思議では無い大事です。
ビスカスがスグリ姫を庇った事、スグリ姫の温情、サクナが姫の意見には骨の髄まで甘い事などによって穏便に扱われては居りますが、適当な後始末で済む様な問題では無いのです。
その事件に関わった人間ではないと断言でき、女系の家で長男から後継を譲られてもおかしくはないローゼルを、邪魔の入らぬ内にその場で後継者に決定する事は、ほぼ唯一の選択肢でした。
一旦は決まった筈のローゼルの婚約が流れたと周囲にーー特に義母に知れれば、面倒な事になるでしょう。
父に相談して早急に別の相手を探さねばと、タンム卿は内心溜め息を吐きました。
「そう気落ちするな。突然だったのだから、婚約を目の前にしたら及び腰になるのも無理は無い。ビスカスに限らず、普通は誰でもそうなるだろう」
「気落ちなんか、してるもんですかっ!!」
兄の、一見的確でありながら自分自身の憂いの的には掠りもしない一言を聞いて、ローゼルは歯ぎしりしました。
「ただ、悔しいのよっ!!ビスカスの癖にっ、私を断るなんてっ……!」
ローゼルはサクナに何度か振られた時もその都度同じ様に荒れたのですが、その時はビスカスがローゼルの相手を一手に引き受けておりました。
ビスカスはその度にローゼルを宥め、八つ当たりされ、愚痴を聞き、ローゼルを誉めながら適度にサクナを罵り、可能な限りの我が儘を聞いてやり、上手に気持ちを逸らせてやって、事を収めておりました。