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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第2章 仕方のない問題
 今回はそのビスカスが相手なのですから、ローゼルを扱い慣れた人間が居りません。暴れ馬を大人しくさせられる人間が居ないのでタンム卿は戸惑い、それと同時に受け止めてくれる人間の不在によって安心して暴れられないローゼルの方も戸惑うという、なんとも中途半端な空気が漂っておりました。
 タンム卿はローゼルの個人的な気持ちはわざと斟酌しない事にして、公的な後継ぎとしての役目を果たす事の方に、目を向けさせる事に決めました。
 
「ビスカスの事は、もう放って置け」

 タンム卿がそう言うとローゼルはびくりと震えましたが、返事は有りません。

「……あいつにだって、あいつの考えが有っても良いだろう?お前もそろそろ一人立ちしても良い年だ。あいつはもう、放って置いてやれ」

 そろそろどころか、とっくに一人立ちしていて良い年です。ローゼルと同い年で、結婚し、子を産み、育てている女だって沢山居るのです。

「別の相手を探しても、良いな?」

 確認すると、ローゼルは僅かに身じろぎしました。しかし、返事は返ってきませんし、相変わらずうつ伏せた姿勢のままなので、どんな顔をしているのかすら見えません。

「……お前にも、思うところは有るだろうが……仕方の無い事だ。家の為だと思って、割り切れ」

 タンム卿は何も言わない妹に言葉を掛けて、枕に突っ伏したままの頭を、そっと優しく撫でました。
 ローゼルの扱いに手を焼いてビスカス任せにしていたとは言え、たった一人の妹なのです。兄として、幸せになって欲しい想いは有りました。父親と相談してなるべく早く新しい見合い相手を見つけてやろうと、タンム卿は思いました。それも出来れば、ローゼルがビスカスと結ばれるより、幸せになれる相手をーーそんな人間が居るのかどうか、全く分かりはしないのでしたが。
 タンム卿は黙り込んでいるローゼルの肩をぽんと一度だけ軽く叩くと、妹の部屋を後にしました。


     *     *     *


 バンシルの言葉をきっかけに、見合いに至った経緯についてローゼルがざっと思いを馳せた後。

「……そうおっしゃるあなたは、どうしてお見合いの事を知っているの?まだ、決まったばかりなのに」

 ローゼルはバンシルに、そう訊ねました。突然やって来た客であるバンシルが見合いについて知っていた事に、ローゼルは警戒心を抱きました。

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