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いつかの春に君と 〜 番外編 アンソロジー集〜
第1章 三日月夜にワルツを
「…そんなに親しくないだなんて…僕はすっごく親しいつもりなのに…伊織は意地悪だ…」
綺麗な瞳でじろりと睨む。
「…お、おい…!何言ってるんだ…!」
慌てふためく伊織をちらりと見遣り、いきなり伊織の皿の林檎を奪って噛り付いた。
「お詫びにこれはもらう」
「お、おい!」
にっこり笑って赤い林檎を頬張る和葉は、小さな頃に読んだ童話の白雪姫のようだ…。
…て、和葉は男だから!
自分の妄想を打ち消すように首を振る伊織の目の前に、トマトが突き刺さったフォークが向けられた。
副菜のサラダだ。
「代わりにこれあげる。食べて、トマト。嫌いなんだ」
条件反射に口を開け、トマトを咀嚼した。

和葉は満足そうに笑い、席を立った。
「次に会う時は、名前で呼んでよ、伊織」
林檎を頬張りながら、にこにこと大食堂を後にする和葉に茫然としながら、トマトを吞み込む。

…トマトは甘く…そして少し酸っぱかった…。
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