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いつかの春に君と 〜 番外編 アンソロジー集〜
第1章 三日月夜にワルツを
「…兄さん?」
辞書を捲る手を止める。

和葉は窓の外に広がる広大な林に眼を遣りながら、答えた。
「うん。…僕には三つ違いの兄がいてね。
…兄は生まれつき身体が弱く先天的疾患もあって、歩くこともままならない。
ずっと屋敷の中だけで…もっと言えば殆ど部屋の中だけで生活しているんだ」
「…そうか…」
和葉が次男坊だと言うことは知っていたが、そのような事情は知らなかった。
「…でも兄さんはとても優しくて賢くて…そして…大層美しいひとなんだ。外に出られないのが惜しいくらいにね…」
「…へえ…」
和葉が美しいと言うのだから、相当なものなのだろう。
…やっぱり血筋が良いと顔立ちも整うのかな…。

「僕らはとても仲の良い兄弟だった。
兄さんは学校はおろか外に出ることもできないから、僕が代わりに学校や外で起こったことを毎日、話した。
僕が体験したことの全てをね…。
僕が活発に過ごせば過ごすほど、兄さんは喜んだ。
自分にはできないことだからだ。
だから僕はスポーツにはことさら打ち込んだ。
馬術、テニス、クリケット、剣道、フェンシング、アーチェリー、射撃…。
やればやるほど、強くなる。
強くなればなるほど、兄さんは喜んだ。
…和葉はすごいな…。和葉の話を聞いていると、まるで僕まで強くなった気がするよ…。
和葉、もっと強くなって。
もっともっと強くなって、そして世界に飛び出して…。
世界中を旅して、そうして帰ってきたら僕に話を聞かせて…。
知らない国や未知の世界の話を…て。
…毎晩、兄さんにそう囁かれ…やがてそれは僕の夢になった」
「仲の良い兄弟なんだな…。本当に…」
兄弟のいない伊織には、少し羨ましい。
辞書を閉じて、和葉の方を向き直る。

…陽はゆっくりと沈み始め、夕焼けの色が濃く和葉の横顔を照らし始める。
明るいような暗いような…どこか寂しげな橙色の光だ。
そのもどかしいような光を纏いながら、和葉は微笑んだ。

「…うん。
…僕は兄さんが大好きで、兄さんも僕を可愛がってくれた。
僕らは、誰よりも理解し合っていた。
…だから…あんな話が持ち上がった時に…僕は身体が震えるような怒りに襲われたんだ」
「…篠宮…?」

和葉の貌には、もはや柔らかな微笑みの欠片も残ってはいなかった。
陰翳の濃い美しい貌には、見たことがないほどの哀しみの色が漂っていた。
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