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いつかの春に君と 〜 番外編 アンソロジー集〜
第1章 三日月夜にワルツを
「…何があった?」
励ますように、言葉を掛ける。
琥珀色の美しい瞳にはまだ消えぬ怒りと…どうしようもないほどの哀しみが溢れていた。
「…僕の十五歳の誕生日の日のことだ。
両親が晩餐の時に、僕に切り出した。
…兄を廃嫡にして、僕に家督を継がせると…。
兄は…療養の為に軽井沢の別荘に移送させると…。
ていのいい厄介払いだ…!」
形の良い薄紅色の唇を噛み締める。

和葉の見たこともない側面を見せられ、伊織は息を飲んだ。

伊織の知る和葉は、明朗快活で屈託がなく陰の部分など微塵もなかった。
生まれながらに明るい光だけを纏い育ってきた完璧に幸福な青年…。
それが、和葉のすべてだと思い込んでいた。

…だが、今、目の前で心情を吐露する和葉は…鬱積も苦悩もある…年相応の青年であった。

「…画策したのは父の母…つまり僕の祖母だ。
祖母は僕の家で絶大な権力を持っている。
祖母は、病弱で屋敷の中でしか暮らすことができない兄に篠宮の家を継がせるわけにはいかないと判断したんだ。
しかも兄に誓約書を書かせた…!僕にすべてを譲ると言う内容の誓約書だ…!
…兄は…どんな気持ちでそれを書いたのだろう…!
兄が生まれた時からずっと傅いて親身に世話をしている執事が怒りのあまり、反旗を翻した。
そして僕に訴えた。何もかも奪われ、まるで罪びとのように家を追われるなど、お兄様が余りに可哀想だと…。
僕は、兄の部屋を訪れた。
兄はいつもと同じように優しく微笑って言った。
…和葉、今度は軽井沢まで僕の知らない話をしに来てくれ…と。
…僕は翌日学校に行き、星南学院への入学願書を取り下げた。
…そして誰にも相談せずに、幼年士官学校への入学願書を提出した。
誰にも秘密で試験を受け合格したのち、祖母の部屋を訪れ、告げた。
…僕は職業軍人になります。
この家は継がない。…篠宮の家はお父様の代でおしまいです…とね。
…祖母はその場で卒倒し、屋敷は大騒ぎになった」

くすくすと笑いだす和葉の貌には、いつもの無邪気な笑顔が戻ってきていた。
「大丈夫。祖母はまだ健在だ。ものすごくしぶとい女傑だからね。最後まで生き残るのは絶対にお祖母様だ」
伊織は思わず吹き出した。
つられて和葉も破顔した。
図書室担当の女教官に睨まれても、二人は暫く笑い続けていた。
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