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いつかの春に君と 〜 番外編 アンソロジー集〜
第1章 三日月夜にワルツを
そうして、伊織と和葉の同室の寮生活が始まった。

和葉は朝が弱い。
起床の鐘が鳴ってもなかなか起きられない。
「和葉、起きろ。鐘が鳴ったぞ」
肩を揺さぶって起こすのは伊織の役目だ。
「…う…ん…あと…少し…」
夢うつつで返事をする和葉は眼を閉じていても彫像のように美しい。
その呆れるほどに美麗な寝顔に暫し見惚れ…はっと我に返り、慌ててまた揺り動かす。
「起きろ。今日は鬼の大山教官の軍事教練がある。
遅刻したら連帯責任だ」
和葉の形の良い眉が寄せられ、ふいにその長くしなやかな腕が差し伸べられたかと思うと、伊織の首すじに巻きついた。
いきなりしがみつかれた伊織はバランスを崩し、和葉の上に倒れ込む。

「わ…!なにす…!」
寝台に引き込んだ伊織は天使のような眼差しで無邪気に笑った。
「おはようのキスをしてくれたら起きる」
薄紅色の唇と甘い吐息が間近に近づき、伊織は弾かれたように和葉を突き飛ばす。
「よせ。俺はそういう冗談は嫌いだ」
憮然として背中を向ける伊織に陽気な笑い声が飛ぶ。
「伊織は堅物だな。そんなことじゃ、女の子にもてないよ。ハンサムなのにもったいない」
「うるさい。五分で支度しろ。俺は先に行く」
つっけんどんに言い放ち、部屋のドアに手を掛ける。
「了解、朴念仁」
和葉が戯けたような敬礼を寄越した。





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