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いつかの春に君と 〜 番外編 アンソロジー集〜
第1章 三日月夜にワルツを
二人だけの時は、和葉は得てしてこんな風だった。
伊織に甘え、ふざけてばかりだ。
だが、軍事教練になると人が変わったように雄々しくなる。
実戦練習で伊織が敵方になると、終始笑顔の欠片も見せずに一歩も譲らない…それどころか容赦ない攻撃を仕掛けてくる。
その作戦は冷静沈着…そして冷酷非情でもあった。
「篠宮は参謀に向いているな。
やはり貴族出の坊っちゃんは、人を操る術に長けている」
鬼教官にも眼を細めさせる手腕ぶりを発揮する。
…それに対して、伊織は…
「有馬は非情さに欠ける。
腕も頭脳も文句なしの一番なのに、もったいない。
お前の優しさは優柔不断さに繋がるのだ。
お前の迷いひとつで何千という兵士の命を失うのだぞ。
心してかかれ」
そう叱咤される。
…自分でもそう思うから返す言葉がない。
演習後、浴室でシャワーを浴びていると、泥だらけの軍服姿の和葉が入ってきた。
「あ〜あ、髪まで泥まみれだ。
本当にあの人は鬼教官だな、鬼だ鬼」
口ほど応えていない明るい口調だ。
隣で無造作に服を脱ぎだす和葉から眼を逸らす。
…陶器のようにきめ細やかな白い肌に、目のやり場に困る…。
「…今日の奇襲作戦はお前の勝ちだ。教官も褒めていた。
おめでとう」
さっさと服を着て、部屋を出ようとする伊織の腕を掴む。
「…伊織は優しすぎるよ。軍事練習だからいいようなものの…本当の戦争だったら、君は殺られている」
琥珀色の瞳は笑ってはいなかった。
憤っているような…不機嫌そうな瞳だ。
「知ってる。だから俺は航空部隊志願なんだ。
…飛行機乗りなら俺が死ぬだけで、ほかの仲間や兵士に迷惑かけないからな」
その言葉に、激しく苛立ったように首を振る。
「そうじゃなくて!僕が嫌なんだよ。伊織が死ぬのが!」
意外な言葉に呆気に取られる。
「何言ってるんだ?」
和葉が唇を噛み締めながら、意を決したように伊織を見上げた。
「…伊織が好きだから…死んで欲しくないんだ」
「…そうか…それはどうも…」
やや不思議そうな貌をしながらも淡々と返す伊織に、和葉は綺麗な瞳で睨みつける。
「言っておくけど、likeじゃなくてloveの意味だからな」
「…ああ、そう…て…えッ⁈」
雷に撃たれたかのような激しい衝撃が走る。
伊織に甘え、ふざけてばかりだ。
だが、軍事教練になると人が変わったように雄々しくなる。
実戦練習で伊織が敵方になると、終始笑顔の欠片も見せずに一歩も譲らない…それどころか容赦ない攻撃を仕掛けてくる。
その作戦は冷静沈着…そして冷酷非情でもあった。
「篠宮は参謀に向いているな。
やはり貴族出の坊っちゃんは、人を操る術に長けている」
鬼教官にも眼を細めさせる手腕ぶりを発揮する。
…それに対して、伊織は…
「有馬は非情さに欠ける。
腕も頭脳も文句なしの一番なのに、もったいない。
お前の優しさは優柔不断さに繋がるのだ。
お前の迷いひとつで何千という兵士の命を失うのだぞ。
心してかかれ」
そう叱咤される。
…自分でもそう思うから返す言葉がない。
演習後、浴室でシャワーを浴びていると、泥だらけの軍服姿の和葉が入ってきた。
「あ〜あ、髪まで泥まみれだ。
本当にあの人は鬼教官だな、鬼だ鬼」
口ほど応えていない明るい口調だ。
隣で無造作に服を脱ぎだす和葉から眼を逸らす。
…陶器のようにきめ細やかな白い肌に、目のやり場に困る…。
「…今日の奇襲作戦はお前の勝ちだ。教官も褒めていた。
おめでとう」
さっさと服を着て、部屋を出ようとする伊織の腕を掴む。
「…伊織は優しすぎるよ。軍事練習だからいいようなものの…本当の戦争だったら、君は殺られている」
琥珀色の瞳は笑ってはいなかった。
憤っているような…不機嫌そうな瞳だ。
「知ってる。だから俺は航空部隊志願なんだ。
…飛行機乗りなら俺が死ぬだけで、ほかの仲間や兵士に迷惑かけないからな」
その言葉に、激しく苛立ったように首を振る。
「そうじゃなくて!僕が嫌なんだよ。伊織が死ぬのが!」
意外な言葉に呆気に取られる。
「何言ってるんだ?」
和葉が唇を噛み締めながら、意を決したように伊織を見上げた。
「…伊織が好きだから…死んで欲しくないんだ」
「…そうか…それはどうも…」
やや不思議そうな貌をしながらも淡々と返す伊織に、和葉は綺麗な瞳で睨みつける。
「言っておくけど、likeじゃなくてloveの意味だからな」
「…ああ、そう…て…えッ⁈」
雷に撃たれたかのような激しい衝撃が走る。