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いつかの春に君と 〜 番外編 アンソロジー集〜
第1章 三日月夜にワルツを
熱く真っ直ぐな愛の告白を受け、伊織はぎこちなく首を振った。
今まで体験したことのない愛の言葉は、伊織を動揺させた。
「…やめてくれ。俺には…そんな言葉を与えられても、受け止めることはできない。
俺はお前みたいに自信に満ち溢れて…きらきらと眩しいような人間に愛されるような…そんな人間じゃないんだ…。
俺には愛が分からない。ひとを愛することが、どんなことなのか…全く分からない」
…母は…父を愛していたのだろうか…。
病床から、窓の外ばかりを見ていた母…。
飛行場で、空を見上げていた母…。
…母は、幸せだったのだろうか…。
自分を生んで幸せだったのだろうか…。

…そして、自分が生まれてただの一度も貌を見にも来ない父…。
大金を支払い責務を済ませ、愛人の子など、毛筋にも気を留めていない父…。

…そこに愛など、あるはずがない。
存在するはずがない。
存在しないものを、理解できるはずがない。

俯く伊織に、和葉がそっと声をかける。
「…いいんだ。伊織。
僕が勝手に君を愛しているだけなんだから。
君は何も気にしないで」
見上げるそこには、和葉のいつもと変わらない屈託のない笑顔があった。

「伊織が僕のことを何とも思わなくても構わない。
僕は伊織を好きでいるから…。
だから、君を好きでいさせてくれ」

…どうしてこいつはそんな風に疑うことなく、真っ直ぐな眼をしていられるんだ…。

伊織は和葉の無垢に輝く美しい瞳を怯れ…そして羨んだ。
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