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いつかの春に君と 〜 番外編 アンソロジー集〜
第1章 三日月夜にワルツを
「…いよいよ、来月は卒業か…。なんだかあっという間だったな…」
和葉がホールのドアをそっと押し開けながら、感慨深げに呟いた。
二月の夜半は、さながら真冬のようだ。
火の気のないホールは氷室のように冷えている。
吐く息が闇の中に白く映った。

「…そうだな…。
お前と恋仲になってからはあっという間だった」
生真面目に答えながら、伊織は暗闇に紛れて和葉を背中から甘く抱きしめた。

和葉はその腕を握り締めながら、微笑む。
…一年半前…初めてキスをした日から、二人は雪崩れ落ちるように恋に堕ちたことを思い知らされた。
伊織は人が変わったかのように情熱的な恋人になった。
人前ではもちろんそんな素振りを見せないが、二人きりになると、すぐに和葉に触れたがった。
…いや、離れるのを恐れるかのように和葉を手離さないのだ。

身も心も結ばれてからは、それが更に加速した。
伊織は優しくそして情の濃く、細やかな恋人だった。
自分の快楽より、和葉の快楽を優先する。
そして、普段寡黙な男がベッドの中では、饒舌に愛を語るのだった。

…俺は、お前の身体の隅から隅まで好きだ…。
何もかもが愛おしい…。
本当は、片時も離したくない…。

昨晩もそう言って、和葉を狂おしく抱いた。
明日は早朝演習があるから…と抗ったのに、幾度も和葉を求めることをやめなかった。

…最近の伊織の和葉に対する執着の理由は、分かっていた。

来月、二人は士官学校を卒業し和葉は海軍へ、伊織は海軍所属航空部隊への配属が正式に決まったからだ。





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